地域の産物を地域の消費者に
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「今日はどれぐらい出したの?」
1999年6月にJA兵庫六甲の農協市場館「パスカルさんだ」がオープンして以来、この言葉が生産者たちのあいさつ代わりになりました。「さんだ」といえば三田牛が有名です。しかし、これからはパスカルさんだがクローズアップされてきそうです。
兵庫県の南東部に位置する三田市は、神戸市の市街地より六甲山系を越え北へ25q、大阪市からも北西に約35qの所にあります。1987年以来、人口が増加し続け、現在11万人です。それというのも、地域で生活が完結できるようにと工業団地のテクノパークや住宅地のニュータウンを開発し、他所からの人口流入が続いているからです。
JA兵庫六甲の三田市周辺の生産者は稲作が主で、かつてはレタスなど高原野菜の市場出荷が行われていました。現在は、直売所を通じて地域密着型農業を目指しています。
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パスカルさんだという名称は田園を意味する「パストラル」と文化を意味する「カルチャー」の頭の部分をつなぎ合わせたものです。生産と消費の新しい形態を目指して名付けられました。建物はとてもモダンで、真ん中の屋根の部分を中心にU字型になっています。緑色の屋根が道路からよく見えて目印にもなります。
「この直売所では『身土不二』を基本理念に掲げています」。パスカルさんだの石田操雄館長が冷蔵ショーケース上の最も目立つ所に掲げられている「身土不二」の文字を誇らしげに指差しました。
「身土不二」とは、地域で収穫される旬の食材を摂り、自然と一体になった生活を送るということ。それだけ環境と身体は深い関係にあり、同じような意味で「地産地消」ともよくいわれます。ですから、この直売所では、野菜も、米も、肉も、すべて地域産のものだけを扱っています。仕入品でもよいので買い物の便宜を図り、他地域産のものも販売してほしいという声も確かにありますが、近くの大型スーパーと競合を避ける意味でも、より強みを発揮できるものをより伸ばしているところです。生産者たちも少量多品目生産に切り替えて対応を図ってきました。
直接販売で意欲がわく生産者たち
出荷する生産者で組織されている「パスカルさんだ直売会」の会員は、開設当時286人でしたが、現在は435人と増えています。
営業時間は午前9時30分から午後7時までで、直売所としては比較的遅くまで営業しています。これは通勤帰りに車で立ち寄れるように配慮したものです。
午前7時30分に直売所の入り口が開けられると、生産者が台車に野菜をのせて運び込んできます。入り口近くにメインとなる平台陳列ケースが三つ置かれていて、地域ごとに3ヵ所に分けられていました。直売所に近い地域の人が早く来るようで、入り口手前の陳列台から野菜が埋まっていきます。
少量でも直接販売できる場ができて、特に高齢の生産者の生活に張りが出てきたそうです。農業から遠ざかっていた人も、病気がちで何もすることがなかったりした人も、意欲が出てきて農業に取り組むようになったため、元気な人が多くなりました。
「病院は体が悪くなってから治す所ですが、ここは悪くなるのを防ぐ所なんです(笑)」。石田館長のこの言葉を裏付けるように、年配の生産者は「値段が安いからあまり儲からないけど、健康のためだと思ってね」と笑いながら答えてくれました。
朝一番の来店客で賑わう開店直後の30分ほどは、商品の搬入をしないようにしています。それ以外の時間は自由に搬入することができます。営業時間が長いので、鮮度を保つために葉物などは午前と午後に分けて搬入する生産者もいます。価格の設定や品質基準は、直売所側では一切管理をしません。農政や市場流通などで様々に管理され続けてきたことを考えると、せめて直売所くらいは生産者の自由にさせてあげようという配慮からです。
販売は売り切りがモットーです。明らかに鮮度が落ちたものは入り口脇のディスカウント用の棚に移動させ、買い得感のある2束売りや値下げをします。これでも売れ残った商品は原則として生産者が持ち帰ることになりますが、生産者の意欲をそがないためにも、職員たちは好感度の高い接客で直売所をもり立てます。
商品に貼るラベルには、生産者の氏名とバーコードが印刷されます。レジで発行されるレシートにも商品名ではなく、生産者の氏名が打ち出されるのはユニークな特徴です。
価格は概ね市価の半値程度。開設直後、数百mの所に量販店がオープンしましたが、売り上げには全く影響がなく、消費者は直売所の趣旨を理解して上手に使い分けているようです。そして、売り上げは年間約5億円と順調に歩んでいます。
販売代金は月2回、15日と月末に締めて、10日後に販売手数料15%を引いたものが農協口座に振り込まれます。消費税はすべて外税方式をとっているので、生産者にとって分かりやすいシステムになっています。
店内は入り口付近に、季節の野菜を中心とした陳列で、特産の三田牛を販売する精肉部があります。壁際にはシイタケ、山菜類などを中心に陳列されたショーケースが並んでいます。中央部の陳列台3台がメインの野菜売り場になります。その先に加工品売り場とレジ、米の販売コーナーと続きます。また、サービスカウンターがあり、購入した商品を全国へ発送することもできます。
地域の産物を生かした加工品作りも盛んになってきました。もち、そば、みそ、それに特産の三田牛の料理に合わせて、すき焼き用の豆腐やコンニャク、お茶、黒豆の加工品などかなりの数に上り、さながら特産館の趣もあります。
直売所には焼き肉・しゃぶしゃぶレストランが併設され、そこで提供される素材も直売所の商品を利用しています。
消費者とのふれあいから新たな道を探る
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開店時間直前には十数人のお客が並んでいました。三田市内の有名料理店の板前さんも常連客で、この日はウドとサンショをじっくり品定めしていました。早く来る人は、目当ての品があるようで、規格外のイチゴを集めた加工用パックなどは、無添加のジャムを作るという人があっという間に持っていきました。「ここで仲良くなった消費者が農作業を手伝ってくれたり、売り方のアイディアを教えてくれたりするんですよ」(イチゴ生産農家の泉徹さん)。
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生産者の中でも稼ぎ頭という若い2人は、どちらもトマトとホウレンソウを主力に生産していました。儲かる経営をするには市場出荷向けの生産も必要と見られ、松田卓己さんは、パルカルさんだに8割、市場に2割、中上之仁さんは半々の割合で出荷しているそうです。
石田館長は「少量多品目の生産の中から自分の得意とする野菜を見つけ、全体のかさ上げにつなげてほしい。その発見の場が直売所」と位置付けています。 |
また、直売会会長で、農産物直売運営委員会の委員長でもある乾丈一さんは、次のように生産者の気持ちを代弁してくれました。
「これからは消費者に視点をおいた運営が必要だと思います。生産者にとってやりがいのある農業であるとともに、消費者に喜ばれる品質を追求していきたい」。
生産者と消費者とのふれあい、交流の中から新たな道を探っていきます。
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