●小説、エッセー
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| むかしむかし、あるところにお爺さんとお婆さんが住んでいました。お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。お婆さんが川で洗濯をしていると、川上のほうから大きな大きな桃が、つんぶくかんぶく流れてきました。 |
「桃太郎」
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| 起きぬけに木の下で冷たい水蜜桃をもいでがぶりと食いついたり、朝露に冷え切った西瓜を畑で拳固で破(わ)って食うたり、自然の子が自然に還る快味は言葉に尽くせぬのである。 |
「みみずのたわごと」徳富蘆花
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| 水蜜、青リンゴ、メロン、西瓜と、一時の軍需工場を見るように、やさしい弾丸の列が、色とりどりに並んださまは、新鮮そのものの美しさだ。 |
「風ふたたび」永井龍男
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| 此(この)木陰の茶屋で好い物は、山から引いた清水の噴水に冷してある藤沢桃と、十四ばかりの小娘の美しいのと、これが此逗子での評判である。 |
「女房殺し」江見水蔭
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古来の仙果・桃。
ひとつひとつ、白紙でていねいに包まれた実を、そおっととりあげる。しっとりと重い。女人のまろい乳を抱いてその重みをたしかめる男になったかのような、ひとときの酔い。
やわらかな産毛をかがやかす白桃の果皮に、ひと刷毛ほどの紅色がにじんでいる。立派な桃がみのるものだ。 |
「野菜のこよみ、くだものの香り」岡部伊都子
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| 今の子供たちの顔を見ていると、白桃を連想するという人がいる。桃は果物の中で最も傷つきやすいものの一つだ。特に白桃は品種改良を重ねてできたものだから病気や害虫に弱い。実がなると一つ一つに袋をかけ、外界との接触を絶ち、だいじにだいじに育てる。できあがったものは優美で繊細だが、自然の桃と比べると、まるでたくましさがない。この人工的管理作品と核家族の中で過保護に育った一人っ子とどこか似ているというのである。 |
「乳の海」藤原信也
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そのやはらかなまるい肩は、
まだあをい水蜜桃のやうに媚の芽をふかないけれど、
すこし汗ばんだうぶ毛が白い肌にぴちゃっとくっついてゐるやうすは、なんだか、かんで食べたいやうな不思議なあまい食欲をそそる。 |
「洋装した十六の娘」大手 拓次
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髭のある人は入れ換って、窓から首を出して、水蜜桃を買ってゐる。やがて二人の間に果物を置いて、「食べませんか」と云つた。
三四郎は礼を云つて、一つ食べた。髭のある人は好きと見えて、無暗(むやみ)に食べた。三四郎にもつと食べろと云ふ。三四郎は又一つ食べた。二人が水蜜桃を食べてゐるうちに大分親密になつて色々な話を始めた。
其男の話によると、桃は果物のうちで一番仙人めいてゐる。何だか馬鹿見た様な味がする。第一核子(たね)の格好が不器用だ。且つ穴だらけで大変面白く出来上つてゐるとゐると云ふ。 |
「三四郎」夏目 漱石
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桃の匂いが暑気にむせ返るような夏の日に、わたしは、子供部屋で母と終戦のラジオ放送を聞いた。父が帰ってきたのは、九月になってからで、もう桃はたべさせられなかったはずだ。しかし、熟れて落ちた桃が、地上で蒸れて腐りながら放つ甘ったるい芳香は、まだ庭にも家の中にも充満していて、父にも遠くからでもわかったにちがいない。
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阿部昭18の短編より「桃」
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ふいともぎとって手渡される白桃の一コ一コには深重な量と質があって、ずっしりと掌にこたえてくる。これは中国の天津の桃と中近東の桃をかけあわせてできた交配種だといわれるが、ムッチリと張りきっているのによく成熟した気配があり、おそらく処女ではないが、いろいろなことをかなり味わい、わきまえた年頃の、しかし、あくまでもつつましやかさとしとやかさを忘れないでいる女の気配である。にがさも怨みも悦楽も知ったが何食わぬそぶりで、しかし、たわわの下腹と太腿の艶やかさはどうかくしようもなくているという気配である。その薄皮を爪で剥くか剥かぬかにいさぎよく、たくましく登場する、白い、しとごに濡れた臀にガップリと歯をたてると、おつゆがくちびるにあふれる。くちびるからこぼれる。顎からしたたる。
「……うまい!」
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「新しい天体」開高 健
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邪気を払うという桃、柔らかさといい皮をむいたときの滑らかな肌といい、甘い汁気をたっぷりと含んでいる味わいといい、無邪気な幼子とよく似ています。リンゴは中学生ぐらいの年頃の子ども、梨はそれよりもすこし大きな子ども、出はじめの頃の桃はもっとずっと幼い三つ四つの子どもといった感じなのです。けれどあまりに立派に育った桃は妖艶な女性を思わせます。そんな立派な桃ができるようになったのも最近のことのような気もします。
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「やさい・くだもの・さかな」渡辺一枝
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白桃ほど麗しい果物はない。
立秋が近づく頃、岡山の友人から白桃が届く。紙箱の蓋をとると、白と水色の二重の薄紙に大事に包まれたみごとな白桃が並んでいる。傷つけないようにそっと手にとって、紙をめくると、一度も日に焼けたことのない赤ん坊の皮膚のような桃の肌が現れる。葉かげでまどろんでいるところを摘み採られてここに届くまで、薄紙の中で眠り続けていたのだ。
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「暮らしの歳時記」長谷川 櫂
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