一家の大黒柱である店主がある日突然いなくなってしまったら、店をどうするか。フルーツショップ ホリグチ((有)堀口商店))では2002年2月に堀口善男氏がまだ63歳という働き盛りで亡くなった。果物が大好きだった堀口さんの葬儀は多くのマスクメロンで祭壇が埋め尽くされた。今も「いい葬式だった」といわれる。あれから2年が経過した。残された家族は、店は、どうしているのだろう。
「私は主人が亡くなった時点で店をやめようと思ったんです。だけど、あの子(長女の裕美さん)がやりたいと言うので、それならばやめるわけにいかないと続けています。一生懸命やってくれています」と真知子夫人。
店を訪問した記事は90年3月号に掲載した。そのとき道路を隔てて建設中だった3階建てビルは1階をパーラーにしたいという希望があったが、現在は賃し事務所にし、1階には「昭和の懐かし館」という市内名所スポットが入っている。また、行田駅前にも3階建て貸しビルを所有し3階には長男夫婦が入っている。こうした将来への布石を打っておいてくれたため、当面路頭に迷うことはなく、家族にとっては感謝してもしきれないほどだという。
今、世間では父権復活が叫ばれているが、これほどに家族に影響を与え、愛された「お父さん」もまれなのではないだろうか。兄は店を継がなかったが、裕美さんは父が愛した店を5年間手伝っていたので、一人でもやると言い張った。納めをしている関係で、かつては野菜も少し手がけていたが、現在は果物だけを扱っている。以前から手がけていた贈答セット物の納めも減ってはいない。今は母娘二人がパートさんの助けも借りながら、父の愛した店を守り続けようという明確な意志が伝わる店になっている。二人は堀口さんのことを親愛の情を込めて「パパ」と呼んでいた。
真知子夫人「あの子は本当になんでもパパ、パパなんですよ。朝起きて市場に行くときにパパにお線香をあげる。店を閉めて真っ先にお線香」
店内には堀口さんの写真が4枚飾られていた。
裕美さん「パパがあそこで監督してるから、怠けられない。本当にいいパパだった。私がセット物を作ると、いいねー、いいねっていつもほめてくれた。父と一緒に5年間やって最後のほうでやっと仕事を覚えられたような感じです」
■仕入れたものは全部食べる
仕入れは熊谷青果市場から。裕美さんが一人で毎朝出かける。
「父の調子が悪いときに市場に送っていったんですけど、裕美は市場じゃないほうを向いていなさいと言われて。そのくらいだから仕入れについては何も教えてもらっていないんです。
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だから、パパがいなくなって初めて市場に行ったときは、30分くらい車から降りられなかった。おじさんばかりだし、市場の中は暗いし。モジモジしていたけど、エイヤッと思いきって、リンゴがほしいんですけど……と行きました。そうしたらだんだんわかってくるようになって、市場の人たちとも仲良しになり、今はすごくやりがいがあります。
市場で9割買って、後は2店ある果物仲卸で珍しいものや安くしてくれるものを買います。
そりゃ、はじめのころは大変なこともいやなこともありましたよ。あの市場で仕入れに来る女性は一人なんです。お姉ちゃんじゃできねぇだろ、いつ閉めるん〜とか言われるから、あんたとは口きかないと思って素通りしてましたね(笑)。 |
私は最初勤めに出ましたが、店の人手が足りなくて忙しそうなので、じゃあ、私がやろうかなという軽い気持ちで手伝い始めました。だから、リンゴといったら、1種類しかないと思ってたんです。王林が緑色なので、二十世紀を王林だと勘違いして、お客さんに梨が出ているのねと言われて、違うよ、リンゴだよ、何言っているの、おばさん、と言ったこともあるぐらい(笑)。
いまは仕入れているものを全部食べます。市場で試食したり、お客さんに試食させながら自分の口にもポンと入れたりして毎日食べてます。今の時期のリンゴとか、おすすめでないものははっきりおすすめじゃないと言います」
■自信のもてる果物だけを販売
「果物はちょっとでも悪いなぁと思うものは並べません。あげちゃうか、食べちゃう(笑)。自信がもてるものしか並べません」
真知子夫人「この子はロスを出さないように仕入れるからその点は違いますね。主人はフロリダ産がこれで終わりといわれると100箱以上仕入れて冷蔵庫に入れていた。そんなことをしても傷みは出ますよね。この子が仕入れるようになったら、借りていた保冷庫を返してしまいました」
「常に新しい品物を置いたほうがお客さんはうれしいと思うので、大量には仕入れません」
以前行っていた学校給食は断ったが、贈答物の納品は変わらず続けている。毎週火曜と金曜日には近隣都市に配達に出かける。売上げは店売りと卸を合わせ、現状維持を続けている。春と秋のお彼岸、それにお盆が三大イベントで、張り合いをもって仕事をしているという。
■花やキャラクター人形も考えて配置
店の入り口にはプランターが並び、店内には花が飾られていた。
「朝、花を摘むだけで、時間がかかるんですよ。入り口にお花があると、すごく入りやすいと思って」
以前は贈答品を並べていた道路沿いの場所は、日が当たるからという理由で、果物は置かず、花を置くようにした。
また、店内には、クマのプーさんの人形があちこちに飾られていた。いかにも女性らしい飾りだと思ったら、実は違った。
「子どもさんが買い物に飽きて果物をいじるのがいやなんです(笑)。ほら、プーさんだよと指さしてプーさんに集中させ、果物をいじらないようにさせます。プーさんがあるとかわいいし、子どもたちも喜びます。人形も売ってと言われますが、売っていません」
■接客のコツはおしゃべり
「パパは、やぁ、やぁ、やぁと言っていればお客さんがきていた。私は父の人脈には及ばないから、自分に合ったレベルでやるしかない。父のお客様は半分遠ざかったけれど、私は、私のお客様を自分でつかみました。コツはよくしゃべることかな。スイカの好きな人とか、金柑をめがけてくる人とか、ゼリーが好きな人とか、その人の好みを覚えて、しゃべっているとまた来てくれます。でもその人の名前や、どこに住んでいるとか、どんな職業とかは聞かないんです。
でもね、みんな私のうんちくをいっぱい聞いてから買うことになるんです。これは宮崎のマンゴーだよ、おいしいんだよ、今しか食べられないよって、あーだ、こーだ」 |

花があると入りやすい |

日が当たる場所は、腰掛けられるようにした |

パートの一条昭子さん |
■今、売れてます
「今の時期は、グレープフルーツとかデコポンがよく出ます。あとはメロンが主です。暑くなってくると酸があるグレープフルーツよりも紅甘夏がおいしい。酸っぱいのがきらいな人用にサンフルーツも買ってきています。《今売れてます》とPOPをつけているんですけど、お客さんに言わせると、みんな今売れてますだから、どれがいいかわからないって(笑)」
店の隅に大きな機械があった。
「あれは甘栗をやく機械です。栗の好きな人がいるので、夏は少なめにして年間やいています。やくときにはねるからこわいです。忙しくない日にやき、やいたらすぐ売っちゃいます。
落花生もすごくおいしくて人気があります。ドライフルーツはうちではあまり売れません」 |
そして、レジ脇にはソフトクリーム。
「ソフトクリームは絶対売れると思って、サーティワンのものを4年前から扱ってます。1種類だけど、夏は30本くらい売れる。ワッフルがおいしいと言われます」
■産地表示も総額表示もきちんと実施
POP類はとてもこまめに付けられている。パソコンの手作りのものもデザインがいろいろでメッセージもそれぞれに工夫されている。
「パソコンで産地表示のPOPカードをさっと打ち出せるようにしています。値段は手書きだけど、書いていないものもあります。お客さんがくると、グレープフルーツはいくらだよ、って言います。総額表示だと680円のものが税込み714円になって、お客さんにはすごく高く感じられるみたい。1円単位まで書くのもちょっとどうかなぁと思います」
品目のPOPは仕入れから戻るとすぐに作成しているという。店の人にはよくわかっていても、お客には柑橘類の区別がつかない。このため、個別に名前シールも付けて個装している。 |
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■ギフトは自分がもらう気持ちで
「私は、果物屋さんというのはきれいでかわいいのがいいと思いました。だから、ギフトも見栄えより自分だったらこういうのがほしいというものを作っています。同じ果物がいっぱい入っているのだと、もらってもあまりうれしくないから、いろいろ組み合わせます。
(柑橘が2個入ったピンクの箱を指して)
これは、ちょっと手みやげにしたい人向けの箱です。遊びに行くのに1000円までは出したくない人用に作っています。
ギフトの場合、男の人はお任せが多いけれど、女の人は作るまでは何かと注文があります。でも、作り終わった後は、わー、素敵と言ってくださいます。とにかくかわいくアレンジしています。盛りかごを作りながら頭で計算はしますが、お客さんの前では計算機をはじきません。計算機をもつだけで、お客さんはうちが儲けるのではないかと考えるだろうから」
真知子夫人「土曜日は法事がよく出ます。この子がいるとすごく作るのが速い。お客さんは本当に喜んで帰ってくださいます。ブドウのラッピングはすごくきれいなんですよ」
■裕美さん流ラッピングテクニック
「ブドウの時期は売っていてもすごく楽しい。うちはピオーネが6割くらい出るんです。お客さんには、種なしピオーネはボヨ〜ンという味、デラウェアはピュッと食べる。マスカットはさっぱりした弾力があると説明し、それでもわからない人には食べさせてます。
ピオーネを売るときには、箱の中にピンクの敷紙を葉のように入れ、ふたのところに赤いチェックのリボンをかけ、名前を入れてセロファンをして、最後に電話番号を書いた金色のホリグチシールをペタッと貼ります。
ラッピングではパディ敷紙(200×200mm)のピンク、オレンジ、ワイン、グリーン、パープル、この5種類は常に置いてます。果物を生かしてくれるんです。
それと私がモヤモヤと呼んでいる紙パッキングは、モスグリーン、グリーン、ピンクは必需品。黄色と茶色は果物がおいしそうに見えないと思うんですよね。
パディ敷紙はピオーネはパープル、甲斐路はワイン色が映える。ロザリオは緑色のブドウですが、オレンジを敷くんです。ブドウや桃のラッピングは特に人気があります。箱ってお金がかかっているから、捨てちゃうなら返して〜と思うことがありますが、お客さんがその後も利用してくれたり、かごも観葉植物やお人形を入れていると言ってくれたりするからうれしいです。
リボンは4箱分くらい用意していますが、東京リボンのソネットNo43、メロンを巻くためのNo14がお気に入り(12mmサイズ)です。メロンは渋い色合いにします。無地とチェックを組み合わせると、果物が映えます。ピンクとオレンジの組み合わせは意外にかわいいんですよ。
ちょっと作ってみますね。
まず果物が汗をかいてしまうので、セロファンにはパンチングで穴をあけます。リボンをとったときにセロテープがついているとお客さんがいらいらすると思うので、セロテープは貼りません。うちの父はビーッとセロテープを貼ってました(笑)。ここでリボンを結び、この場合はお祝いだから、カギ形にカットしますが、仏事用にはリボンを渋い緑色にしてカギ形にしません。
私は紅甘夏1個を包むのにもセロファンに穴を開けています。果物が汗をかくとかわいそうだから。パンチは必需品です。セロファンをたたんでおいてパチンと入れます。
西瓜もラッピングするんですよ。リボンは赤を使います。カット西瓜は売りません。カットするときはお客様の前でカットします。
金柑は人気がありましたね。市場に入荷最後という日に3Lをまとめ買いしてずっと売ってました。かわいくアレンジできるし、味もよいから、金柑大好きです。
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| セロテープを使わない。無地とチェックのリボンをアレンジするのがポイント |
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| 上のギフトの持ち帰りには可愛い袋に入れる |
■父親から教わったこと
仕事のしかたは全部父から教わりました。いいものをお客様に提供する。儲けようとしてはだめ、与えることも大切だよということは常に言ってました。父はお客さんがくるといつも満面の笑みだった。父のそういうところを見ていてすごいなぁと思ってました。品物がきちんと並んでいるときれいに見えるよ。ここに来れば何でもあるよと言われなくちゃだめだよって。ザクロを買ってきたときに、だめじゃん、誰が買うのと言ったら、そうじゃないよ、演出で置くんだよ、売れたって売れなくたっていいんだよと言われました。
私が今、店をやってるのわかってるかな。市場に行ってるの知ってるかな。頑張ってるから見ててねと写真を見ながら声をかけています。お母さんはいつもお父さんのおかげと感謝の言葉を言って、親娘でブツブツブツ(笑)。
それと、お客さんにも忘れてほしくなくて写真を飾っているのですが、懐かしいわ〜と言われるとサービスしちゃう。
パパは一緒に仕事をしていて楽しかった。すごく真面目でユーモアがあった。不真面目なぐらいなほうが長生きできたかもしれないですね。いくらほめてもパパは帰ってこないのですが……、私のやれる限り店を守っていきます」
堀口さんは市長さんが来たときなどに「誰か娘にいい人いないですかね」と声をかけていたそうだ。裕美さんの理想の人は、もちろん「パパのように温かい人」。いつかきっと現れることだろう。
実は今回の取材は、昨年同店を訪ねたという名古屋本場果物商業協同組合の大坪満男さん((株)サンフルーツ大坪)から「娘さんが頑張っている。ぜひ訪問し紹介してほしい」と依頼を受けてでかけた。大坪さんが受けた感銘を最大限にお伝えしたく、裕美さんの言葉はできる限りそのまま再現した。
今、親子、夫婦、兄弟で果物店を営んでいるみなさん、時は永遠ではありません。家族って素晴らしい。家族とともに「今を生きる」ことを大切にしてください。
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