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細見果物店

  654-0012 神戸市須磨区飛松町2-3-21

8:30〜19:00、木曜定休

対面販売のよさを各人が最大限に発揮、果物販売100%

細見琢美さん、春子さん夫妻をはさみ、昌美さん、明子さん夫妻
(琢美さんは2003年5月に逝去されました。)


 山陽電鉄・神戸市営地下鉄「板宿」駅から北東へ商店街や小売市場が広がる。1951年に開設された板宿公設市場は、板宿公認市場(23店)、板宿南部市場(19店)、板宿きたいちば(23店)の3つの協同組合からなる。板宿市場全体では1日2000〜3000人が来場する。よく知られている小売市場だけに、電車と地下鉄を利用してくる人もいて、老若男女様々な人々がやってくる。

 この市場内の板宿公認市場のブロックに属するのが細見果物店である。間口は狭く、売場面積は24uくらいしかない。
 かつては従業員を雇ったこともあるそうだが、現在は店主の細見琢美さん、春子夫人、仕入れを担当する次男の昌美さん、明子さん夫妻の家族4人(女性陣は交代制)で店を切り盛りしている。
 
同じ日果連に属する果物店も50m以内に2店、ダイエーも近くにあり、専門店としては厳しそうな立地に見える。

 後継者の昌美さんは2年間会社勤務をした後、店に入って12年経過した。夫人も実家が商売をしており、来店客にさりげなく声をかけ、接客上手。2世代の家族がお客とやりとりする様子は見ていてもとても楽しい。

 今回は、細見琢美さんの話し言葉をできるだけ忠実に再現することにした。早口で軽快な関西弁で元気に話す様子をぜひお伝えしたかったからである。(お断り:同店は(財)食流機構の優良経営食料品等小売店全国コンクールで総合食料局長賞を受賞した。記事は2002年9月に取材した) 
アーケードのついた板宿市場。細見果物店の両隣は豆腐店と食肉店

 
■ 競合も多い小売市場の中で

 ――そもそもどういうきっかけで始めることになったのですか。

 「いまはその店はなくなったけれど、八百屋に丁稚奉公にいったんですわ。結婚してからはこの市場に入りたいと思って探しとったら、ある人がこの店だったら売りまっせと言ってくれはった。なんぼくらい売れますかと聞くと1日1万〜1万5000円という。そんなことでは商売できへんなと思ったけど、まぁ、やってみようという気持ちで売ったら、初日に1日18万5000円くらい売った。その当時はものすごく人が多かったから、うれしうて、うれしうて涙出ました。それからは、運も努力もあったんやと思うけど、多いときは1日に40〜50万円も売るときもありました。

 そやけど、客がどんどん減ってきたもんで、息子に会社に行って月給もろうてやっとるけど、おもしろいかと聞いた。いや、おもしろうないと言うから、なら帰ってこい。商売はおもしろいぞ。よいときもあれば悪いこともある。けど、いろいろなことが勉強できるし、お客と話もできて楽しいよと言った」

 ――どういう方針で経営されているのですか。高級志向とか、いろいろ店によって違いますが。

 「うちは高級ということはないんやけど、こだわりということに力を入れてます。あまり買わんような人でも、ここならおつかいものになるというようなことをなるべく心がけて商売してます。同じものを同じように商売しとったんでは、あまり利潤があがらへんし」

 ――息子さんの奥さんも、明るくて、すごく接客が上手ですね。お客さんがきたときに声をかけるタイミングが絶妙です。

 「いまうちに仮に300人のお客さんが来るとしたら、200人はあの子たちのお客さんです。うちの子はものすごくお客さんに丁寧に言うタイプなんやわ。だから、物を送ってくれというときには、みんなあの子に頼む(笑)。
 宅急便がうちの店はごっつう増えとる。なぜ私が相手する客よりも子供の客のほうが増えるんや。うちの子はどんな品物でも全部検査して送る。あの子はそういうタイプやねん。そやからクレームがきたときでも、きちんと対処できる。それでひとつよかったらお客さんが倍に増えるというんで、私がしているときよりもはるかに数が出ています。

 電話ひとつでも、みかん送ってというときに、私はハイハイ3500円ですわ、よっしゃ送るで〜って切るでしょ。この子はそうじゃない。もうちょっと待っとったらもっとええのが出ますよというから、お客さんも親切やなぁと。そういうところが行き届いているんやと思います」

 ――すごくできた息子さんですね。
 「そういうところは私よりも優れているなぁと思ってます」

 
 販売の考え方ある店づくり 

  ――小売市場というと、庶民的で安いというイメージがありますが、細見さんの店は「秀」品を多く扱っているのですね。

 「いっぺん買ったお客さんに、次も買ってもらおうと思うと、良品売っとったんではあかんのですわ。固定客を大事にしようという気持ちがたえず頭にあるもんで、悪いものを買ってくるなよと言うてるんです」

 ――仕入れの方針は。
 「あまりはしりのものは売らないが、はしりのほうがうまいものがあるときは、他人が買わなくても買ってくる。利用する仲卸は5店。金払いの早いのがうちの取り柄。神戸はまちまちですが、3日目払いくらいだったら、品物がよくないときに、値段ひいてくれるわね。これが1週間もたつと問屋も忘れるし、こちらも言いにくい。そういうのを上手に利用していかんとあかん」

 ――それぞれの季節で、どのような特徴を出しているのか教えてください。

 「2〜4月まではハウスの地ものイチゴをもってくる。有機栽培だからうまいねん。これが毎日ないから、今日は入りますとか貼り出すんですわ。お客さんも待っていてくれるんです。1日100パックは売ります。
 ほかのイチゴも比較用に置きますが、荷主をチェックして買ってきます。
 力を入れるものについては利益も薄く。それでもなんとかやっていけるんです。変わったやり方をやっていかんと客はついてこない」 

 ――店先では、お店のみなさんがそれぞれすごく説明しながら売ってますね。

 「そやね。ちゃんとお客さんに説明してあげんとね。台湾のマンゴーなんぼ置いとっても、自分が食べてみてこれはうまいと思ったら、責任もってすすめられるからね。まず食べるのが基本です。果物に対する勉強を徹底的にしとかんとあかんということですわ。

 神戸市岩岡のイチジクも、ただ売っているだけではお客さんはむいて食べるのに飽きてしもうたと思う。だから、冷凍して溶かして食べるとすごくうまいというような商品の説明をたえず言いながらやっとる。
 
よそと同じミカンを売っとったんでは、自分とこの特徴が出されへんからね。だから、子供にいうんですわ。うまいもんだったら、なんでも買ってこいやと。今年は宮崎のマンゴー、台湾マンゴーごっつう売りました」 
イチジクは地元産のものに力を入れる。
 ――そういったものって結構値が張るでしょう。

 「張るやつを売らなきゃあかんですわ。金儲けも大事やけど、お客さんの好む、自分が食べておいしいなと思うものをすすめなあかん」

 ――自分がおいしいと思っても、お客さんの好みって違いますよね。この巨峰とピオーネならば例えばどうすすめるんですか。

 「まず、お客さんに、タネは?ときく。タネはあってもよいけど、うまいのをくれといったらこっち。タネは子供がいやがんねんというときはこっちにしなはれ。そういうようなやり方ですわ。お客さんも今日は何がええのんて。私がピーコラピーコラしゃべるほうやから。世間話とか姑の悪口なんかも、それがお客さんの心のよりどころやと思うてなんでも聞いてあげるんですわ。おばあちゃん、風邪ひかんようにしいやとひと声かけると、あくる日来よるんです。そういう心づかいがええんやないかと思うてます」
掲示板を使って、新しい食べ方を提案

 ――これなら、スーパーはこわくない。

 「スーパーはサラリーマンが商売してる。我々はプロ。なんやかんやいうてもプロはプロだと思いますわ。板宿にダイエーができるときはみな一生懸命反対したんですわ。いまは、ダイエーのおかげで、お客がグルグル回って、両方で品物を買ってみて、やっぱり個店がいいなぁと思ってもらえるから経営がやっていける。ダイエーがあってほんまにうれしい。生鮮のものは専門店、プロの味だと思いますよ」 


■ こだわった産直商品

 ――先ほどはイチゴでしたが、5〜6月にこだわっているのは。

 「おい、まーちゃん、5〜6月は」
 (ここで呼ばれた昌美さん登場)

 「清見とか、さつき(3月ころ出る八朔)とか柑橘類は少し時期をずらしてます。暑くなってくるとかんきつ類がほしくなりますが、それらが出る3〜4月にはお客さんの反応が鈍い。5〜6月に売れ出すのに市場にはない。そこで3〜4月に仲卸に冷蔵してもらって、時期をずらした形で売っているんですが、評判がいいです。前日FAXで発注しておいて、仕入れた荷と一緒に積んでもらってます」(昌美さん)

 「さつきが入るとわかったら、売らんといてよと商品を確保してるんです。甘夏みかんがよけい出よったときから、私が冷蔵庫に入れて保管するのをやってました。よそにないと、少々値が張ってもお客さん、喜んで買うてくれるわね。だが、気候によって早く腐るときがある。そこが難しいんですわ。

 富有柿も12月に入ると産地冷蔵で出てくる。産地で冷蔵するのは柿が青いときにとって冷蔵するから糖度が増してない。うちは完熟した柿を箱に100ケースとか150ケース真空にしてもろうて、よそが冷蔵柿を売る時期に出して売ってます。仲卸がことしもやりますか、いつごろにしましょうかと聞いてくれます。データもきちっと残しとくからどれぐらい冷蔵すればよいかはわかってるんですわ」

 ――桃は。
 「桃もよう売れます。大玉はここに置きますやろ。うちは場所を変えて小さい桃(28玉)を7個500円くらいで売るんですわ。これが1日20ケースくらい売れます。割安だけど利益が出る。桃の時期は家に帰ったら何もせんで、すぐに手を洗わないとかゆい、かゆい(笑)。

 関西はあら川の桃がよく出回るけど、うちはその中でも一番おいしい日川白鳳が中心。日川が終わりやな〜というときは40〜50箱冷蔵庫に入れてね(笑)。そういうやり方が好きなんですわ。よそが違う桃を売ってまっしゃろ。そういうときに、あんたんとこの桃、おいしいねぇって言われる。多少は高くつくが、自信があるものを売ってれば高くともよいと思う」

 ――瀬戸ジャイアンツって新しいブドウ?

 「あのブドウは神戸の市場には入っていないんですわ。あれは香川県から直接ひきよる。皮も食べられるし、タネはないし、甘いし、おいしいんですわ。息子が九州から東北まであっちゃこっちゃ行ってますからね。おーい、まーちゃん」

(産直商品の質問なので、昌美さん再び呼ばれて登場)

 「お客さんからほかからもらったブドウがおいしかったといわれ、親戚の人がつくっているという話をきいて生産者に電話をしたんです。違うブランド名で岡山産のを入れてたんですが、そちらは見た目重視で、食べたら今回の黄色っぽいほうがおいしい。それで、一度売らせてほしいと頼みました。

 今、東京へ卸しているそうなので値が合うかどうか。うちは進物で売るのでなく、食べてもらってお客さんが喜ぶものを売りたいと交渉し、値段の折り合いがついたので、東京の市場へ出荷するときに送ってもらってます。ちょとでも単価を下げるために箱の値段は同じでも4房入りにしてもらって少しでも安くなるようにしています。結構珍しくて食べて後味がよいとリピートがあります。生産者と話すといろいろ情報が入るので勉強になります。

みなさん、変わったものをおいているからと喜んでくださるんです。とにかく最初に食べておいしいと思ってもらえるものを売らないと、後が続かなくなるんでそのへんは気をつかってます。
色彩を工夫した陳列、他店で売らない品を扱う

 黄金桃は毎年岡山の光センサー桃を扱ってます。値段も安くないので、特定のお客さん向けです。さくらんぼも市場に入ってないときは、山形から取り寄せます」(昌美さん)
 

 ――味にこだわって販売するなかでも一番楽しい季節は。
 「盆前だね。桃もうまいし」(琢美さん)
  
 ■ 手間をかけ、販売を工夫
 
 ――夏はカットスイカをするんですか。

 「よそは300円、うちは500円。うちは端っこを捨てておいしいとこだけ。パイナップルを切って売っている店は神戸市では少ないけど、うちは機械で抜いてるんです」

 ――果物がぎっしり並んでいて、常に補充しているせいか、品物が生き生き見えますね。
 
「同業者からもきれいに出してるね〜、うまいこと配色出してるね〜と言われます。たえずうまいものは前のほうに出してます。

 今日これを売らんなあかんというのは、中央部分に置く。えらいもんでっせ、場所が違うたら売れが悪い。売りにくい場所?左隅だね。

 ――桃はサイズを違えて場所を離しておくのがコツとのことでしたが、産地が違うものを比較用に隣り合わせて置くケースも見受けられます。JA丹波ひかみの丹波栗と愛媛産のクリですね。

 「これは私の親戚がJAに勤めてるから9月に送ってもらってるんですわ。こっちはおいしいから価格はどうしてもkg900円ぐらいと高くなる。そこで、比較用に並べておくと、お客さんはどう違うの?と聞くから説明がしやすいんですよ。食べてもろうとすぐわかるんだけど。知ってはる人は丹波クリを買いますね。1人で10kgのクリを送る人もいます。

 食べてみて初めて味がわかる。これは自分で体験してみんとわからんから、うちの商品はなんでもうちで味見して食べているんですわ」
違う産地を並べて、どう違うかを説明するのも販売テクニック


 ――DMなど販売活動は。

 「中元、歳暮の時期に300枚ほど。お客さんリストがあるもんで、こんなんありますよ、はがきを出してます。はがき持参者に特別なサービスをしているから戻りの割合も高い。あの子がパソコンから何から全部自分でしよるからよくやってくれる」

 ――この店ならば1億円は売ってますよね。

 「いや昭和の終わりころは売っとったけど、粗利は今より低かった。震災で3〜4割落ち込み、徐々に持ち直してきたけど、ここ数年停滞している。やはり周辺の家族数が減ったことと客単価の減少が原因だろうけど、ここ数年は果物の安値が続いているので、仕入を少なくしているんですわ。でも、粗利はあがってます」

 ――(神戸市主催の講演会の案内状を見つけて)では、もう一度持ち直すためにいろいろ勉強しているわけですね。

 「いろいろ私も話を聞いたけど、果物や客に対する扱い方に関していえば、私のほうがよく知ってるなぁと思うことがありました(笑)」

 味にこだわった商品を、客の立場に立って販売する。そのために仕入れから販売まで様々な工夫をこらす。接客はひと一声かけてコミュニケーションを図る等々、専門店のよさが小さな店にぎっしりと詰まっていた。