高度成長期には、果物を並べるはしから売れたという話をよくきく。当時の果物店はこんなふうだったのかもしれないと郷愁さえ感じられるのが有限会社丸二果実店だ。
「昔のまま変わらないでしょう。たくさん並べるのが好きなんですよ」と寺田武彦さん。
店の壁面に缶詰やメロンがぎっしり並び、細い通路に挟まれた陳列台の前には、木箱の即席陳列台が道路まではみ出さんばかり。そして、陳列台には、これでもかというほどのボリューム陳列。すごい。そのボリュームに圧倒されてしまう。古き佳き時代の「繁盛する果物店」がここに息づいていたのかと感動を覚えるほど。聞けば、戦後に店を建ててから店構えは当時のままという。昔も今も、果物の鮮度がよく、回転率が高いという好循環なので、果物たちもパワフルに訴えかけてくる。
 |
●果物は地域一番店
丸二果実店は、大津市内の京阪大津線浜大津駅より徒歩5分の菱屋町商店街入り口から8店目に立地する。JR大津駅前よりも浜大津周辺のほうが町の中心地になっている。
京阪大津線の走る道路をはさんで、反対側に丸屋町商店街、こちら側に丸二果実店のある菱屋町商店街、長等商店街があり、これら3つの商店街がナカマチ商店街(約120店)と呼ばれている。西友大津店が商店街中程にあるが、その先は食料品店がほとんどなくなってしまう。周辺には近江八景「三井の晩鐘」で有名な三井寺を始め、寺院が20〜30あり、寺が多いことが大津市の特徴にもなっている。また、大津赤十字病院も近くにある。 |
| 卸があるので店の仕事自体は休めないそうだが、店内に今月の定休日を記している。種類も価格も様々、アイテム数も多い。果物の市場のような雰囲気 |
|
菱屋町商店街周辺は、かつては県下一活気があったそうだが、郊外の膳所周辺に、ジャスコや西武など大型店が集中し、住宅地のドーナツ化現象がおきたため住民も減ってしまい、かつての賑やかな人通りはない。郊外といっても2km程度ならば車で5分ほどで行ける。このため、郊外へ客をとられた商店街では大津絵を店内に飾って、オススメ品を店頭のボードに出したり、カード事業を始めたりと、活性化策を模索している。
商店街の中には、漬け物店や、川魚専門店など、支店をもったり、地方発送を手がけて有名な店も何店かある。だが、徒歩で来る人が多い商店街ではどうしても中高年の行き来が多くなる。
丸二果実店は戦前近くの町で丸二商会として青果物を取り扱っていたが、戦後この商店街で果物専門店を始めた。寺田さんは3代目。
ありがたいことに引っ越した先からも買い物に来てくれるが、「それでも以前からすれば、お客様の数は減ってきています」と残念そうだ。
たとえば、イチゴの最盛期には以前ならば毎日2000パックは販売していたそうだが、今は1日300〜500、それでもクリスマスシーズンには1日1000パック以上は売るという。市内洋菓子店の4割弱、16店ほどを得意客にもっていることもあり、イチゴは年末の稼ぎ頭である。
地域一番店として知名度が高いので、名前を出せば誰もが知っている一流ホテル、旅館など宿泊施設6カ所の厨房に果物を納めている。大津市は琵琶湖に近いため、観光客も多い。一流宿泊施設に泊まり、おいしい果物が出れば、丸二果実店の果物と思ってよいだろう。
近江神宮や有名結婚式場、ホテルへの婚礼用引き出物にも長年取り組んでいる。1980〜1985年頃にかけてが最も果物の引き出物が盛んであったそうだ。
 |
| メロンは常時60個は陳列。贈答ギフトの5000円クラスの商品見本も陳列している |
|
「多いときで、メロンが1日に3000個くらい出ました。大安吉日にはトータルすると15〜16組はありましたから、平均50人分の引き出物としても800個は出た計算になります。いまは100〜200個と少なくなってしまったけれど、多い日には500個くらいは出ます。タレントの地味婚がはやり、家と家とのつながりが希薄になって一般でもレストランなどで気軽な結婚パーティをするようになってから、減ってきましたね」
●選ぶ楽しさがある売場
取材時(11月半ば)の価格を見てみよう。
たとえば、1)和歌山の種なし柿1盛り5個180円、4個100円、4個350円、1個100円、2)奈良西吉野の富有柿4個450円、1個150円、200円、3)福岡朝倉180円、250円。
みかんは、1)紀州有田の田村みかん1個80円、1袋230円、330円、380円、箱3500円、2)天然完熟1盛280円、3)福岡高田1個60円。 |
 |
リンゴは、1)ふじ1個380円、サンふじ180円、250円、2)つがる50円、サンつがる300円、3)王林250円、280円、4)ジョナゴール130円、200円、250円、1盛り400円、サンジョナゴール150円、5)サン千秋150円、1盛り320円、6)ゴールデン150円、サンゴールデン1盛り380円、7)紅玉180円。
単にお買い得の品をボリュームで出すのではなく、種類を豊富に、無袋栽培・有袋栽培のものを両方取り扱い、1個売り・かご盛りなど選択肢が広い。甘いリンゴが主流であるといっても、選ぶのは顧客なのだから、と酸味のあるものまで揃えている。その心意気が顧客には通じるのである。 |
| リンゴは彩り、甘酸、大小などバラエティー豊か。栄養面をPRするPOPもある |
|
 |
店構えは昔のままでも、常に経営については細心の心配りをしている。ザクロには、ザクロの栄養を書いたPOPを掲げ、本をさりげなく置く。
奥のほうは腰の高さほどになるが、店頭からは一目で店の奥まで見渡せる。
関連商品もザクロジュースや果物のジュースなどのほか、蜂蜜、アグリクスなども置いている。関連商品のキーワードは「健康」である |
|
さらに、カリフォルニア産ザクロ、ヤシの実など目をひく輸入果物もアクセントとして常時多彩に揃えるようにしている。
この日のマスクメロンは静岡産が3000円、3500円、4000円、5000円、6000円、7000円、高知産1000円、愛知産が2000円。マスクメロンは店には常時60個くらい並べているが、裏にも20個くらいはストックしている。近頃はやわらかめのメロンが好まれないので、少し早めの食べ頃設定にしているそうだ。この時期、ホテルの納入の主力はマスクメロンとイチゴである。マスクメロンは県内でもトップクラスの売上げとみられる。
仕入れは、大津瀬田の地方卸売市場と京都市場を半々ぐらいの割合で利用している。どちらも車で片道15〜30分で行ける距離にある。メロンや輸入果物など品質が求められるものについては京都市場から仕入れ、地場産のものについては地元市場からの仕入れが多い。仕入れは寺田さんと、おじの今村嘉宏さんが担当している。
買いやすいざる盛りなどを店頭に、贈答に向く1個売りの商品を奥に陳列しているので、リンゴなど同じ種類であっても、あちこちで目にすることになる。「果物のびっくり箱」といった感じでいろいろ目移りしてしまう。そこで、「何にしたらよいかしら」と店と客とのコミュニケーションが始まる。来店客のうち、8割は固定客。贈答は3000〜5000円が多く、売上げに占める贈答割合は半分くらいに達する。
|
販売は、寺田さんの兄の寺田光彦さん(業務用卸を担当)、寺田さん、みどり夫人、おじ夫妻の今村さんと恵子夫人のほか、従業員は5人。
 |
ことしは、寺田さんにとってはチャレンジの年になるかもしれない。現在の店では家庭用から高級品まで幅広い取り扱いをしているので、より専門店らしさを出していきたいと考えていた。そこに、店から数十m離れた空き店舗を購入しないかという話がきた。売場もコンビニ店が開けるほどに奥行きが深い。取材したときには、シャッターの降りた前で、買い得品を販売していたが、販売上手なので次々に売れていく。
地域一番店としての実績、商品力、販売技術を利用して、本店と支店を生かしたおもしろい商売ができそうだ。全く新しい業種も考えられるかもしれない。
「購入したので、大きな借金を抱えてしまったんです」と笑うが、借金も財産のうち、この不況の時代に新ビジネスにチャレンジしようという意欲があることは素晴らしい。新店ができたときに、本店としての現在の店がどうなるかはわからないが、「果物歴史資料館」的な意味合いとして、いつまでもこの懐かしいスタイルで元気な販売を続けてほしいと願わずにはいられない |
| 新たなビジネスチャンスとして、どんな店にするか。2001年、ひとつの夢が花開く。 |
|