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東京豊島区、巣鴨のとげ抜き地蔵尊へ続く地蔵通り入口に立地しているのが、かりんの松岸(合資会社 松岸商店)である。この店には数々のユニークな特徴がある。それらをあげていこう。
☆カリン:カリンという特殊な商材を盛夏を除くほぼ年間取り扱っている。9月頃から冬場にかけてカリンが並ぶ店頭風景は巣鴨の冬の風物詩といってよいほど。山梨県の産地とは長年の信頼関係が築かれている。
☆カリンの加工品:1970年頃よりカリンの加工を手がけ、蜂蜜漬、シロップ、パウダー、ドライカリン、カリン水飴、カリン飴など約10種類になった。食品の大半は自家製である。カリンの化粧水も発売し、好評だ。付加価値が高いことから、生よりもむしろ加工品を主力にしている。注文は全国から舞い込み、リピート注文する客が多い。
☆果実酒の原料:店奥には果実酒用の見本がズラリと並ぶ。アケビ、ヤマモモ、サルナシ、マタタビ、クコの実、マタタビなど、果実酒を作ろうと思ったら、この店に相談すればてっとり早い。最新刊の「果実酒・花酒・薬用酒手作り大百科」(グラフ社)にも協力しているが、手作り志向、健康志向で果実酒を作る人は増えているそうだ。店頭には、「こんなに大きなサイズが!」と驚くような仏手柑が入った果実酒が飾られていた。
☆特殊商品:ラズベリー、グーズベリーなどのベリー類、ドリアン、サトウキビ、アカマツの新芽など珍しいものが店頭をにぎわす。カクタスペア、ピタヤなど一般にはなじみのないトロピカルフルーツもこの店へ来れば確実に入手できた。ウコンは話題になるずっと以前から生のものを取り扱っていたが、この店がむしろ話題の発信地になっているという感もあるほど。店頭の商品のにぎわいは、「蚤の市」で掘り出し物を発見する楽しさがある。今日入ったばかりという「サルのこしかけ」が何気なく置かれていたりする。これらを購入するのは単なる珍しもの好きではない。ちゃんと固定客がついているのだそうだ。
☆味にこだわった果実:スイカは冬の時期から丸のまま販売する。7月下旬には正統派スイカは鳥取県産、このほか「ゴジラのたまご」や「でんすけ」「太陽」などが並べてあった。懐かしい「印度」リンゴを扱う店も都内では珍しい。かと思うと、高級専門店が扱うような味のよい高品質果実、あるいはあまり出回っていない希少果実が並ぶ。高品質・多品種・珍しさが果実についてはキーワードになっている。
☆果実ジュース:ザクロジュースは話題になったが、現在は赤ブドウ液とオリジナルのイチジクジュースに力を入れている。京都産イチジクを使って採算を度外視して作ってもらっているイチジクジュースは味の自信作。
| ☆乾燥果実:歳末から正月明けは「ころ柿」がズラリと並び、かなりの量を販売する。乾燥バナナは若い人から年配者までの人気商品という。
これだけ話題になる商材があれば、客とのやりとりも楽しいに違いない。
12年前に取材したときには、岸勝正氏、久美代夫人で店を切り盛りしていた。だが、現在は長男で末っ子の勝久さん、結婚後も店を手伝ってくれる長女の栄子さん、次女の弘子さんと家族5人のチームワークで、相変わらず「元気な果物店」を続けている。今回は、有望な商品や果物店についてなどを岸さん夫妻に伺った。 |
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| ジュースはイチジクジュースに力を入れている。左にしらかばメロンが見える |
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●新しい品目は出始めから大量販売
―しらかばメロンがずいぶん多いですね。
「しらかばはかれこれ5年くらいたつけど、出始め当時はめちゃめちゃ売ったね。メロンのなかでもひと味違う。昔のマクワウリを求めるお客様にはまことに受けました。今もこれだけ置いている店は少ないと思いますよ。日持ちがよいから6月から旧盆くらいまで売りたいと思い、冷蔵しています。うちのお客さんはほとんどギフトに用いるので大玉中心ですが、贈り先に喜ばれるので毎年贈る人が多い。このメロンも最初は値決めがなかったんですが、仲卸と話し合うなかで値が定着してきました。やはり良い商材はきちんとした値を付けてあげなくてはね。
うちの場合、5年前から値段はほとんど変わっていません。この暑い時期に、白くて緑色の縞が入るから外観が爽やか、しらかばというネーミングも実によくて、マッチしている。たいていの人は、これ何ですかと聞きながら店に入ってきます。出始め当初は仲卸も数社しか取り扱っていなかったが、うちはおいしくて珍しいものならば何でも売りさばくというので、ドッとくるようになった。お客様もここにくれば変わったものがあるはずと期待して来店します」
―プラムにも力を入れているんですね。
「生産者が一人だけという品種もあるんですよ。ファンを作らなきゃプラムみたいな商品は売れない。でもいったん知ってもらえば、これほど価値のあるおいしいものはない。プラムは種類も豊富だし、改良もどんどんされているから、奥深い果物と思いますね。それを知らしめるには、店頭に置き、お客さんに食べて納得してもらうことが大切。だから、時間がかかりますよ。
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| スイカなど味本位に、なおかつ珍しいものを揃える |
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専門店だからこそ、味のよいもの、よそで扱わないもの、特殊なものを扱っていきたい。それには、そうした商材を探さないといけません。生産者だって、この店でたくさん売って、値段も出してあげれば喜びますよ。だから、常にこの人の品物が入ったら値段を落とすまい、買ってあげようと思うんです。そうしないと生産者は翌年も作る励みがなくなります。この生産者の作るプラムとベリーAは最高ですよ」
―こうした商材は仲卸経由が多いですか。
「直接にひくものもあります。今は昔ほどに量は売れないから、信頼のおけるところとつきあっていくほうが賢明だと思います。今年のようにレモンが品薄になったときにも取りはからってもらえますからね」
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●店は商売の基本
―ところで、この店が人通りの多い地蔵通りのなかにあったら、今よりもっと売れるのではないかと思ってしまうのですが。
「地蔵通りだと、とげ抜き地蔵へ行く客だけが対象になり、午後6時には店を閉めていたと思います。ここだとフリーの客もつかまえることができるんです。1960年頃まで巣鴨駅の真横に支店がありましたが、薄利多売で数量は売るけど客単価は低かった。本店である現在の店はお客さんがじっくりと品選びできるし、ギフトが売れる。立地でずいぶん違ってきますね。
でも、果物屋は厳しい時代だと実感します。うちのように特殊なものを扱っていてもしれていますから。ことしは特にこの猛暑では人が出てきてくれない。人さえいれば、珍しいものがあると店に入ってくるし、話ができるのだけど。毎月4の付く日はとげ抜き地蔵の縁日だけど、それすらガラガラ(笑)。いつもは商店街の他店からうらやましがられているのだけど、ことしの夏だけはお手上げですね」
―それにしても商品数はすごいですね。
「息子が大田市場に仕入れに行っていますが、これでもなるべくおさえさせているんですよ。息子は大阪の中央市場で修業してきて、自分なりのカラーを出したがるからそのあたりが大変ですよ。親はその土地に合った商売を考え、経験を積んできたうえで現在のカラーを出しているのだから、息子が戻って約5年お互い競争でしたよ(笑)。一気に変えて失敗したら元へ修正するのは大変です。親の築いてきた土台を頭に入れて、いずれ自分はこうしようと将来図を描きながら、少しずつ改良を加えていくのならばいいのですが……。
小売も奥が深いから、細々したことを覚えるには10年はかかるとみています。それらを身に付けたうえで息子なりに考えてやってくれればと思っています」
「ところで今、長男がインターネットにはまってしまって困っているんです(笑)。春先からネット通販をするようになり、品数をここまで掲載しているところはないと自慢するんですよ。
アセロラやヤマモモなど送料とクール代金のほうが高いぐらいで、荷造りしながら不思議に思うぐらい(笑)。地元でも買えるのになぁと思う注文もあるのですが、ああいうのはインターネットで注文するのが楽しいんでしょうね。いまや店のみんなを巻き込んで大変です」(久美代夫人)
―この店ならば特殊商品はインターネット向きだとも思いますが。
「商売はあくまでも店が基本。それをおろそかにするのは愚の骨頂です。インターネットは無店舗でもできると思うし、やるならば専門店を1店舗出すぐらいの心構えで採算を考えて取り組まないとだめだと思っています。二足の草鞋はうまくいきません。ネット通販を取り組んでみてわかったのは、やはりどちらかがおろそかになってしまうということです。種類を多く掲載することがいいのではなく、やはりフォローが大切。目新しいものを掲載しても、たまたまうちにない時にその商品の注文があれば、探し回らなければならない。その労力といったら!! でも、幸いにこれまでは苦情が1件だけです」
来店くださるお客様とのほうが信頼関係が築けますし、やはり小売冥利だと思うのです。確かにネット通販をやらないよりはやったほうがいいでしょうけど、のめりこみすぎてはダメと言っています。何事も信頼を失わないようにじっくりと着実に取り組むことが大切です。
どんなことにせよ、10年でものになるのはよほどのことですよ。うちのカリン製品にしても何十年とかかっていますから。専門店での販売は厳しくなる一方だと思いますが、同時に決してあきらめてはいけないと思いますね」
今回、残念ながら長男の勝久さんにはお話を伺えなかったが、長年信頼の実績を培ってきた親世代の言葉「店は商売の基本」には重みがあった。
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