●震災の被害が大きかった長田区で
「おいしいんじゃけん まあ たべてみんさいや!!」
西本果物店の店頭天井に掲げられた横断幕に大きな文字が書いてある。お、ここは広島かと思うとあにはからんや、神戸である。
長田区の西本果物店を訪ねた。
一般に、現地に着いて土地の情報を得るためには、周辺の商店街やスーパーを見て歩く。
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| 長田中央市場は空き店舗をコミュニティースペースに活用している。この日は商店街と共同で推進しているカード事業の交換をしていた。 |
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神戸高速鉄道の神戸線、高速長田駅を出ると、長田神社前という赤鳥居が目に入る。そこから長田神社まで約90店で構成される長田神社前商店街がある。95年の阪神・淡路大震災では商店街の95%が全・半壊したが、40年近い歴史があった赤鳥居だけは倒壊を免れ、翌年の補修完成というニュースが長田の復興を強く印象づけてくれたのだそうだ。
商店街の店が比較的新しいのは陰に震災という出来事があったのである。
続いて歩いていくと、長田中央市場があった。ここは長田区内最大の小売市場だったが、近年改装してモダンになった。とはいえ、改装後も対面販売を生かしたスタイルで26店が軒を連ねるので、庶民的な雰囲気はそのまま残されている。
さて、新湊川に架かる長田橋を渡ると、やはり小売市場の「NAGATA食遊館」がある。神戸市内に小売市場は65店あるが、セルフ式にして大きく業績を伸ばしているそうだ。この中に、神戸果物商業協同組合の堀上統央理事長の店(果物、酒売場)もある。
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●おいしいんじゃけん まあ たべてみんさいや!!
その隣に、長田神社前商店街サンドール南館があり、1階の西本果物店にようやく辿り着くことになる。
そこで、冒頭の「おいしいんじゃけん」の話に戻る。西本さんの両親は広島県出身だった。そこで、あえて広島県の言葉を使ってみた。広島出身の人はもちろん大喜びだが、「おたく、広島なの?」と声をかけてくれるお客が多く、そこから会話もかわされる。のれん制作費に4万5000円かかったそうだが、これだけ目立って会話の糸口になれば元はとれたのではないだろうか。
のれんには「毎月一日はぽっぺん市です」の文字も書かれているが、「ぽっぺん」とは、かつて長田神社参りの土産品として売られ、今は長田神社で正月に限り授与されているガラス製の玩具。吹くと何事もよくなるということから、縁起をかついで、商店街全体の毎月1日の安売りデーを「ぽっぺん市」と称している。商店街では「タメ点カード」というカード事業を実施していて、長田神社を生かした地域イメージづくりを行っている。
商店街の事業といえば、助成金の出る間は大きな事業をして1〜3年後、助成金が切れると後が続かないというところも見受けられるが、ここでは小さなイベントでも買い物客に喜んでもらえる企画を自分たちで考え、継続していこうという堅実な姿勢がある。空き店舗が出ると全国チェーンの飲食店や携帯ショップなどが出てきて似たりよったりになる商店街が全国的に増えてきているなかで、長田神社前商店街は長年の歴史をもつ店が地域の文化も守りながら営業している。
地道にがんばっている、という姿勢は西本果物店からもジワリと伝わってきた。
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| オリジナル商品としては、かりん入り蜂蜜を作っているが、インターネットを見たといって企業から会員向けに25本の注文が入った。「ことしもまた作ります」と張り切っている |
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この日(9月下旬)の目玉商品はたねなしピオーネ1箱580円。ふつうならば1500円以上の価格で贈答用にも販売する品質のものである。「市場の仲卸がパレットごと150kg分くらい倒してしまったんで、いくらでもいいから売ってくれ〜と頼んできたんですよ」
道行く人に、「こんな値段では出ないよ」と声をかけると常連客はこの店の品質がわかっているのだろう。次々と売れていく。荷が到着してから1時間半で売り切れてしまった。
夕方になると、仲卸が車を横付けして今度は雑メロンとニューベリーAをドサッと置いていった。明日は休市なので、とにかく売りさばいてほしい商品なのだそうだ。メロンは皮があまりきれいではない「訳あり商品」だが、切ってみると、本日が食べ頃といえる熟度でおいしい。西本さんは味見をしてから、「わっ、安い」と感じられる値段を付けた。外観がよくないので、メロンの入った箱の中に、中身の見本として半分に切ったメロンをラップして添えている。 |
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| 特売のブドウの箱を斜めに積み重ねてみたり、POPをおしゃれに飾ってみたり、様々な工夫が見受けられる |
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店頭ではサンつがるが1個90円。隣に置いたビニール袋入りもお値打ち感のある価格で売られている。
「いまは安いからといってとびつかなくなりましたね。必要なものを必要なだけ買っていきます。かつてはずいぶん売ったものですけど。うちは葬儀用の果物も神戸では一番扱っていたんですよ」
安売りの商品が店頭に並んでいても、安売り店というイメージはない。高級品もあって店の奥には、お客がくつろいで会話したり、注文伝票を書けるカウンターと椅子があった。
並んでいる果物たちが生き生きと見えるのは、POPの色や置く位置の高さが違っていたり、POPに果物の絵や、ひと言が入っていたり、演出方法がうまいからだろう。この日はクリがよい位置に飾ってあったが、クリご飯などを紹介したパンフレットを置き、「ご自由にお持ちください」とPOPも添えていた。
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POPがとても有効に働いている。次男の靖彦さんが店を手伝っているときいて、てっきり作成者は靖彦さんかと思ったが、西本さんなのだそうだ。
「パソコンを習ったら、おもしろくて夜中の3時、4時まで3か月くらい熱中して覚えました」。ある日突然フラフラとなり、救急車で運ばれてからは、無理は禁物と肝に銘じている。だが、パソコンの技術は飛躍的に向上し、いまでは店奥のノートパソコンで品目と値段を入力するとすぐにカラー印刷できるようにしてある。
「便利ですよぉ。もうパソコンがない生活は考えられません」。とはいえ、POPよりも何よりも威力を発揮しているのが、対面を生かした販売である。「甘いですよ。栄養価が高いし……」などと言いつつ、店頭に立つ客の目の動きを見ながら、適切にすすめていく。常連客については好みも把握していて、すすめ方はさらにグレードアップする。 |
| 店の奥にデスクトップのパソコンとノートブックがあった。品名と数字を入れればすぐに印刷できる |
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店頭では台車の上に果物の箱を3箱くらい積み重ねて販売しているが、見ただけで活気ある売場だということがおわかりいただけるだろう。西本果物店も他の長田区の店同様、震災復興にかかったローンを引きずっているそうだ。神戸市が全壊、半壊、一部損壊などについて10年融資で3年据え置いてくれたが、98年からかれこれ900万円近い返済が始まった。天災さえなければ全く発生しなかったはずのマイナスからの出発である。
でも、西本さんはくじけない。震災後に店を開けたときに、果物を求めて買いにきてくれたお客たちの顔が忘れられないという。自分たちの日々の生活も大変だろうに、嗜好品である果物を買いにわざわざ来店してくれた。みずみずしい果物がどれだけお客の心を癒し、自らも癒されたか。そのときの思いが、震災後のガンバリに通じている。震災を乗り切っても健康を害しては何にもならない。
そうそう、そういえば、長田神社に室町時代から伝わる「古式追儺鬼踊り」のオーストラリア公演について、西本さんが話してくれたのは、95年1月だった。その年も節分会で鬼の面をかぶって鬼の舞を踊るのを楽しみにしたのだが、1月17日震災に見舞われた。
あのとき西本さんの言葉は次のように結ばれた。「長年鬼の役をしていると演じるというよりはそのときに本当に神の使いが乗り移ったような思いになる。地域の皆さんの幸福を願っていると、自然に日々の接客態度が違ってきて、自分自身の成長にもつながっているように思える。
店の前にはダイエーがあり、隣は近代化された食遊館と、経営を取り巻く環境はきびしいものがあるが、果物専業という伝統的な販売を守りながら、そこにお客の共感を得る新しさをいかに出していくかという点では追灘式と相通じるものがあるようだ。地域と密着する姿勢で、常に謙虚に努力していれば、きっとわかっていただける。果物小売は素晴らしいと後継者に伝えていきたい。日々その思いである」
最後にひと言。くれぐれも健康だけは大切に。(2002..9)
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| 特売品の価格もパソコンでプリント、店内に統一感がある |
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| 訪問したときにはお盆の時期だったので、お供え用の果物も用意していた。今年はつがる、二十世紀梨、オレンジ、バナナを盛り合わせた |
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| タオルで作ったメロン。こういうおもしろい賞品も会話の糸口になる
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| 長田神社前商店街振興組合・長田中央小売市場協同組合では3年前よりカード事業を開始し、「タメ点カード長田」を発行している。1)通常は買上金額の1%だが、2〜3倍以上のポイントがつくこともある。2)カード加盟店で120点が100円として買い物ができる。3)1点未満のポイントを1年間ためて寄付することができるので、ポイントがむだにならない。4)買い物袋持参により、エコポイントがつく、5)ポイントをためて抽選会等のイベントに参加できる、など5つの特典をPRしている。長田神社の「古式追儺式節分祭の鬼踊り」でも知られる鬼がキャラクターとしてかわいくデザインされている。西本さんの店ではカード会員に向けて「3000円以上10%off」など割引のついたDMはがきを出し、より固定客化を図っている。 |
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| 古式追儺式節分祭の鬼踊りで、鬼の役を演じる西本さん。現在は指導する立場 |
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