ホーム 目次

スギトラ(杉寅)果実店

〒604-8006 京都市中京区河原町通り御池下ル
 

営業時間9:00〜19:30、パーラー9:30〜19:30、定休第2、第4火曜日

 外側からも、個性ある店がまえ。果物売場と後方のパーラーで約66uほど。

 

 杉田邦広さん。後方には、大きな熱帯魚の水槽があり、その上2段の棚に並んだ小瓶にもすべて熱帯魚が飼育されている。  てきぱきと話をする光代さん。マルチーズの「ヒーロー」を抱いて。

 ●京都市の官庁ビジネス街で
 
 京都の「河原町三条上ル」に「風流な果物店」があるときいて訪ねた。東西線の京都市役所駅から徒歩数分、市役所や京都ホテルなど高級ホテルが立ち並ぶ一角に「スギトラ(杉寅)果実店」はあった。白い長暖簾がかかっていて、達磨大師のような墨絵が描かれている。店頭には店奥にあるパーラーのおすすめメニューを書いたスタンドが出ているが、ガラス戸には季節のスペシャルメニューが貼られ、墨絵に色づけした果物の絵も描かれている。店内は白い陳列棚で統一され、果物の色彩がとてもよく映える。季節の生け花も飾られ、伝統ある老舗果物店といった風情だ。

 主夫妻の杉田邦広さん、光代さんは奥のパーラーにいておなじみさんと談笑中だった。奥のパーラーはカウンター式になっていて、果物売場に来店客があると、すぐに出ていけるようになっている。

 フルーツサンドイッチを注文してみた。リンゴやパイナップルのほか、季節の果物が入るそうで、このときは昨秋の取材だったので、西洋ナシとイチジクが入っていた。これらが口の中でミックスされる味わいが絶妙である。生クリームは果物の甘さをひきたてる程度に、あっさりした味にしている。
 隣の人はと思ってみるとフルーツパフェを注文している。メニューには、健康ジュース500円など生の果実を使ったジュース類(350〜800円)が並ぶ。この日最も効果だったのはザクロジュース800円だった。サンドイッチがおいしいので、一口フルーツや、白玉とフルーツ、季節の盛り合わせなど、どれもこれも味見したくなってくる。値段は、果物をふんだんに使っている割にとても良心的な価格といわれるそうだ。パーラーというよりも、サロンといった雰囲気なので最初は気後れする人もいるかもしれないが、一度店に入って店主夫妻と接すると、不思議に居心地のよさを感じてしまう。常連客はみなそうした客ばかりのようだ。 
 ↑常連さんはいわば、スギトラのファン。パーラーで休憩した後、家庭用の果物も購入してくれる。

 季節のフルーツを盛り込んだメニューが好評。果物の味のバランスを考えた内容になっている。→

 右:フルーツパフェ、左:フルーツサンド)(イチジクが入っていて、生クリームもあっさりして果物の味を生かしている。おいしかった〜)

 「高級なものだけで勝負しているので、品質を落としてはいけないと気を使いますね。うちのパーラーで初めてラ・フランスを食べたといって喜んでくださる若いお客様もいます」

 フルーツを組み合わせるメニューなどは旬のもの、珍しいものなどを入れてあげるそうだ。

味にこだわっているという姿勢は、店を見ても、パーラーで何か一つ味わってもわかる。

 店の人気メニューは、「健康ジュース」。ニンジン、リンゴ、レモンをミックスしたもので、リンゴが季節により変化して味が微妙に違っているのがみそである。また、ザクロジュースもさわやかで好評だった。

●ホテルの宿泊客が多く立ち寄る


 スギトラ果実店は、100年近い歴史を誇る。かつては京都ホテル、京都ロイヤルホテルなどの一流ホテル、京都の三大旅館といわれる俵屋、炭屋、柊家などに野菜果物の納めを手広く扱っていた。だが、1980年頃に、野菜は店に置かずに配達だけにして果物に力を入れ始めた。父が引退して夫妻だけの経営になるのとほぼ同時に、店を改装しパーラーを始めた。

  住宅が少なく、周囲はホテルやレストラン、ブティックなどが多い繁華街となると、生鮮食料品専門の販売はかなり難しい。現に周辺にはほとんど青果物を扱う店がなくなった。それでもスギトラ果実店がやっていけるのは、店と果物にファンをつけているからである。

 仕入れは京都市場からで、主に仲卸2社を通じて仕入れている。「果物は中身が見えないけど、全部試食して売りたいぐらい」というほど味にはこだわっている。

  現在は、ホテルからの注文は、特別待遇の宿泊客の部屋に飾る果物が多くなっている。スギトラの果物がホテルのイメージにもつながってくるだけに、高品質な果物を届けることは「義務」のようなものである。
スギトラ果実店の2店隣の大きなビルは京都ロイヤルホテル。1泊2万円近い高級ホテルである。


  ホテルに近いので、宿泊客が夜に部屋で食べる果物を求めて来店することが多いという。そのときに食べておいしかったからと家に送ったり、注文をしてくる人もいる。そんな出合いから様々な常連客ができてきた。パーラーでもおいしい果物を食べて、店主と語り合っていく。 

 「この人は果物屋のわりには果物を食べなかったんですよ。味見で食べるから、それで十分だと思っていたのでしょうね。でも、体調を崩したときに、果物を食べたら体調がよくなってきたものだから、このごろはよく食べるんですよ」と光代さん。

 「身体を健康に保つために果物は不可欠。果物を食べないといけない体質になってきた」と杉田さんは笑う。


●趣味を生かして楽しく経営 


 店主夫妻で印象的なのは、嗜好品である果物を楽しく販売しているのが伝わってくることである。それは杉田さんの趣味を生かした店になっているからだろう。

 パーラーに初めて来店した客が驚くのが熱帯魚の大きな水槽があることである。両親が商売をしていたために、一人で遊んでいたので、熱帯魚は小学生の頃から飼育していた。これまでにサル、ヘビ、コウモリなども飼ったというが、今は熱帯魚一筋。パーラーがマスコミに紹介される機会も多いが、「熱帯魚がいるパーラー」は、それだけでも行ってみたいと思わせる。そうやってマスコミに紹介されて来店しても、固定客として定着する人は、「ちょっと一癖あったり、個性的な人が多い」そうだ。ほぼ毎日パーラーに立ち寄って、自宅用の果物を購入して帰る人もいる。
店内には商品は少ないが、旬の果物を選りすぐって並べている。白い陳列棚で果物がよく映える。
 卸を縮小してきたのも味がわかる職人が減ったことも一因になっているが、逆に、スギトラに来店するようになって、果物を楽しむ客も増えてきたという。「今日は何がおいし〜い?」が挨拶代わりになっている。

 趣味が店に生かされているのは、あちこちで目にする書や絵である。「書や墨絵はストレートに自分を出せるからいい」というが、和紙の葉書にサラサラと書いては人にあげてしまうのであまり残っていない。季節の果物、山野草など題材はいろいろ。「夏炉冬扇」の印を押す理由を「役に立たない」からと笑うが、なかなかどうして、差し上げた人にはとても喜ばれているそうだ。上手になる秘訣はなく、ただ「心を込めて書けばよい」とのこと。

 このほかにも写真、陶芸と多趣味である。現在、長男が製菓学校に行って勉強中なので、将来は「長男の焼いたケーキに自分の作った茶碗で抹茶を出したい」とも考えている。
 
店内右側にはズラリと高級メロンが並ぶ。コンパクトな売場だが、高級感があふれている。

 子息が店を手伝うようになったら、果物と菓子をともに扱ってみたいと、その日を楽しみにしている。

 中小小売店はどの業種も後継者難といわれる。だが、趣味を生かしつつ店に個性を出している杉田さん夫妻を見ていれば、子供も「いいなぁ、楽しそうだなぁ」と思うのかもしれない。21世紀の専門店は、楽しさとゆとりがキーワード、そんな気にさせる果物店である。

 
杉田邦広さんの作品(←クリック)をごらんください!!