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津軽フルーツ

* 〒165-0032 中野区鷺宮 1-29-8

営業時間 平日 9:00〜22:00 /定休日 日曜、祝祭日


 

商店街の外れに立地

鈴木秀七さん、アサさん

 ■父ちゃん、母ちゃんで頑張ってます

  昨年9月、NHKの首都圏ニュースで東京都中野区の都立家政商店街が紹介された。西武新宿線都立家政駅を中心として南北600mに約200店が軒を連ねる商店街のキャラクターは家政をもじって「火星ちゃん」。この地に住む漫画家ちばてつや氏デザインのものだ。

 アナウンサーが目にとまった店にフラリと入って紹介するという趣向で、津軽フルーツは米店、青果店、雑貨店に続いてシンガリ登場となった。

 「おいしいの、いっぱい並んでいますから」とニコニコ顔のご主人(鈴木秀七さん)。

 奥さん(アサさん)が道路に出てきてお客さんに大きなサイコロを振ってもらう。出た目の倍数だけ商店街で実施しているスタンプがもらえるという店独自の企画だ。「店先をにぎやかにしようと思ってね。お客さんの喜ぶ顔が見たいから」。2人の意気がとても合っていることを指摘されると、「商売は2人で一人前、父ちゃん、母ちゃんでね」と軽妙な切り返し。

 見ているだけで店の雰囲気が伝わり楽しくなる映像だった。こうした訪問番組はディレクターが打ち合わせを重ねていると聞くが、いかにも自然である。実際のところ、どうなのだろう。

 【Episode 1】爆笑果物店
 
「商店街全体にNHKが来るということはわかっていたけれど、どの店に来るのかはわからなかった。フッと入ってきたのよね。以前に住んでいた人から電話が来たりして反響はすごかった〜。番組も好評だったみたいで、その後衛星放送で再放送されたんですけど、そのときのタイトルが爆笑果物店って書いてあったの。何これ?って感じでした。

『途中下車の旅』という番組でも紹介されたことがありますが、都立家政には画廊があってすごくいいんですよと主人が言ったら、旦那さんは絵を描くんですかと聞かれ、『いや、かかねぇ、かかねぇ、おれは背中かくんだ』とか言って大受けしたんです。
 
 『テレビチャンピオン』のリフォームチャンピオンは、お店の人のエプロンを作るというもので、私は『果物屋さんのエプロン』のモデルを務めたのよ。朝から晩まで、やれそこでターンしろとかスキップしろとか言われて大変でしたよ。このデザインをした人がチャンピオンになって、エプロンは記念に大事にしまってあります」

 7月中旬の暑い日、都立家政駅に到着した。始発の西武新宿駅からは6駅12分で、商店街がまだまだ元気な地域である。津軽フルーツは都立家政商店街の外れ近くにある。見た目はごくフツーの果物店だが、なぜか果物がとても生き生きとして見える。

 この日は山梨県産春日居の桃がメインに置かれ、出始めの幸水、巨峰が正面の特等席を占めていた。スイカも長野(JA松本ハイランド)、茨城(浮島)、鳥取(倉吉=極実)、千葉(八街、富里)など5ブランドが並んでいる。これらは値段で品揃えし、目立つように2か所に陳列。店奥と外に、桃の箱がどっさり積まれている。

「これ半分は空箱。箱からくれという人がいるから、店の中に高く積んでおくの。ボリューム感を出そうと思って。いかにも売れてる感じでしょ」
   

 「今日はお盆だから30箱近く売れたけど、ふつうはこんなに売れないよ」

 津軽フルーツという店名から「青森県出身?」と聞く人が多い。だが、2人は福島県出身で見合い結婚。世田谷の津軽フルーツから暖簾分けを受け1975年3月17日に開業したが、本家は消滅し、津軽フルーツはここだけになってしまった。

最高級の桃「特秀」「秀」を扱う
娘さん2人は嫁いでいるから、津軽フルーツも鈴木さんの代でオシマイになる。

「燃え尽きるの。ハハハハハ。手抜きをしないで、精一杯やって燃え尽きようって言ってるの。だから、座って店番したり、どうでもよくなったら、お客さんに迷惑をかけるからやめる。毎日の売上げも大切だけど、楽しむことも大切よね」

「もう一度あそこの店に買いにいきたいというような店になりたい。あそこに買いに行ったら気分がよかったからもう一度行こうというような店になりたいと努力しています」

「でも、努力がなかなか実らないの。お父さん、口先人間、ギャハハハ」

 とにかく豪快に笑う(注:以後、ギャハハハという笑いは(笑)と表示)。数時間のうちに「楽しい」という言葉を何度聞いたことだろう。ときには落ち込むことがあっても、じゃんけんゲームなどをして人が集まると「やる気になればできる。あきらめずに頑張ろう」という意欲がわいてくるそうだ。

 【Episode 2】思わずニッコリしたくなる包装紙

 新しく作り直した包装紙は2人の似顔絵入り。「なんたって父ちゃん、母ちゃんとでやっているんだから」という思いが伝わってくる。娘さんがユーモラスなイラストを描いてくれた(今回文中顔マークにも採用させていただいた)。
 5000枚印刷してもらい約12万円。

「1万枚頼むと長時間経つと紙が汚くなるから割高だけど5000枚にしたの。他の果物屋さんはどうしているんだろう」

 2人とも血液型はB型。「私は言いたい放題、お父さんは受け流すから喧嘩したことはない」

 唯一喧嘩の種になるのが、店の陳列のこと。並べておいてもどちらかが置き換えるということがあるらしい。

包装紙の父ちゃん、母ちゃん

 【Episode 3】元気の出るシャッター

 「この間、女の子が近々引っ越すけれど、うちのシャッターを見て勤めに行くときに毎朝元気づけられたってお礼に来てくれたの。ありがとうございましたってシャッターに向かって挨拶したんだって。

『皆様おはようございます。津軽フルーツの父ちゃん、母ちゃんです。今日も気をつけて行ってらっしゃ〜い。どうぞよい一日でありますように。果物専門店 津軽フルーツ』ってシャッターに大きな字で書いてあるんですよ。言葉が入っているシャッターがどこにもないからと書いてもらったの。

 子どもたちが『おはようだってよ』とか言いながら通っていくのが上(2階)で聞こえるのよ。そうしたら、その女性が来てくれたのでありがたいなと思って。シャッターが閉まっていると寂しいけれど喜んでくれた人がいたからよかった 。


 営業時間は朝9時から夜10時までで定休日はなし。何かあるときは必ず『休みます』『早じまいして食事に行きます』などと書いていく。昨年の夏休みに沖縄に行ったときは、台風に遭遇して10日間も休むはめになった。その間シャッターはもちろん降りっぱなし。

 「そうしたら留守電が30件以上入っていたんですよ。帰ってきたら何人もの人に元気だったかと聞かれ、抱きついて泣くお客さんもいた。ご近所の店もどうしたのかとみんな心配していたって報告してくれました。そのときに、店をやっていてよかったなぁと思ったの。

 売れなくて落ち込むこともあるんですよ。でも、いつもお客さんに力をもらっている。元気でいられるのは店をやっているおかげと感謝しています」

 【Episode 4】赤は客を招く色

 都立家政商店街のホームページには「赤ジャンパー店主の津軽フルーツです」と鈴木さんの写真が出ている。赤いシャツはいわばトレードマーク。この30年間、店でも、どこへ行くにも赤を着る。

「赤はエネルギーが出る色」。というわけで、夏は赤のポロシャツ、冬は赤セーター、赤ジャンバーで過ごす。

「赤だけど店は黒字」が自慢。
 よく見ると、前の売り台も赤(一部ピンク)だということに気付いた。種明かしをすると、発砲スチロールを並べた上にテーブルクロスを貼って、その上にビニールを貼っている。こうしていると汚れないし、3ヵ月に1回くらい取り替えると店がリフレッシュする。テントも汚れたと思ったら掃除を頼んでいる。

 「赤は、買って、買ってとせがむ色なの。ピンクは暖かい色。これをグリーンにしたときがあるけど、店全体が暗くてお客さんがひきましたね。ここに置いている花は西に黄色のラッキーカラー(笑)」

 鈴木さんの赤に対して、アサさんはピンクが多い。以前のアサさんは太っていたので締まって見える色を選び、赤、紺、黒しか着なかったのだが、色が沈んで見えるらしく疲れた顔をしているねと度々言われた。そこで、娘さんにカラーコーディネーターになってもらい、顔映りのよい色(薄いピンク、ブルーなど)を選ぶようにした。それまで着ていた服はすべてゴミ袋行き。

 だが、洋服の処分には、大幅にやせたことが影響している。「くだもの健康法」などの著書がある石原結實氏が提唱している健康法にまじめに取り組んだところ、5ヵ月間で鈴木さんは7kg、アサさんは11kgやせた。朝はフルーツジュース、昼はそば中心、夜は好きなものを食べて、適度な運動をするというものだから、「健康なダイエットの成功例」として果物のPRにもってこいだ。

 アサさんは太っていたときには3Lサイズだったが、やせてからは多少ピチピチのMサイズを着て9号サイズをはく。ダボダボサイズを着ていてはやせないとわかってからだ。


「恥ずかしくても挑戦しようと思ったら慣れてきて今は何も思わなくなった。いまは動きやすくなって、疲れなくなって、めいっぱい働いてる」と言いつつ、お客がくると元気にイベント用サイコロをもってお店の外に飛び出す。

 「はい、津軽でございまーす」。電話に出るときは声が1オクターブくらい上がる。ふつうの声だと元気ないねと言われるので、意識的に元気な声にする。とにかく元気がモットー。

 【Episode 5】販売促進はこんなことをしています

 身体が元気だから、販売促進も次々に思いつく。商店街のイベントに絡めてサイコロを振ってスタンプを2倍(毎週水曜日はハミング2倍サービス)とか、じゃんけんゲームでスタンプ5倍などすぐに独自の企画に結びつける。店先がにぎやかになるのが楽しくてしかたがないそうだ。

「購入金額1000円以上の人にじゃんけんをして、向こうが勝ったらスタンプを50枚差し上げます。このとき、私はパーしか出しませんよ、と言うんです。なのに、子どもさんは一生懸命考えるからおかしいの。スタンプ50枚あげるということは2割引き。でも、決して儲かっていないわけではないから、贈答のときにドーンと買ってもらえばいいやと思って。そのときの損得はあまり考えず、あとあと続くようにと思ってやっているんです。毎日楽しいですよ」

 鈴木さんは商店街の宣伝部長している関係で、商店街が催す阿波踊りや中元売出しでは、地元ケーブルテレビでPRすることがある。 

「このときは店の前で撮影するけれど、後ろにサクランボとか季節の目立つ果物を並べておくんです(笑)。そうすると、いいの売ってるねとお客さんがやってきてくれる」
 アサさん、ちゃっかり抜け目がない。

 【Episode 6】パソコンもマスター

 
 果物のイメージアップに貢献しているのは、パソコンで作成したPOPやカード。これはアサさんがチャレンジしている。ギフトに暖かいメッセージを入れたいという思いからだった。

「昨日パソコンをやっていたら、いままでできなかったことが本を見てできるようになったのよ。パソコンはね、本とのたたかい。

 パソコンをやろうと思ったのは一昨年。最初はスタートのしかたもわからなくて、適当にやっていたらぶっ壊れた。それで電気屋さんから直しにきた子に、果物の一番いいのを用意してまず食べなさいと買収し(笑)、以後は何かというと呼んで教わるようにしたの。いまは慣れてきて、今度はどんなのを作ろうかと楽しいのよ」


 POPには必ずひと言が入る。カードは「お誕生日用」「お見舞い用」「地方発送用」など各種作っているが、いまではすっかり慣れて次にどんなものを作ろうかと考えるのが楽しみになっている。「あったか心のフルーツショップ」というキャッチフレーズがカードでなかなか決まっている。

品質保証マークやカードもパソコンで作っている
リンゴの皮むきがよいということも早速POPにとりいれる
お盆の果物もかわいらしくアレンジされていた

 【Episode 6】巨人戦は任しとけの黒板ボード

 アサさん中心に話を聞いていたら、横から鈴木さんが「野球の話はした?」と催促した。

 実は鈴木さんは開幕戦は必ず見に行くという大の巨人ファン。野球シーズンはラジオを聞きながら、巨人戦の「ただいまの試合状況」を黒板ボードに書いて店前に掲示しておく。

帰宅前に結果がわかるから楽しみにしているんですよ。塾通りの子どもさんがどうして結果を知っているのかとお母さんが疑っていたのだけど、津軽フルーツさんの黒板を見てわかったってね」

 まさに地域密着型のサービスといったところだろうか。

 サービスといえば、周辺には年配の客が多いので、配達も欠かせないサービスになっている。よそで買った品物はもちろんのこと、電話を受けてトイレットぺーパーも一緒に届けたりする。

「これが本当にどこにもできないサービスで、うんと喜ばれます。雨が降るときは配達が多いんです」

野球実況放送黒板

 ■あったか心のフルーツショップ

 見ていると、とにかくよく動く。取材で話をしているからといって手を休めるわけではない。顔なじみの子どもが来ればパチーンと手と手を合わせてハイタッチした後「イテテテテ」。子どもたちが学校帰りに挨拶をして通る。どちらかがいないと、「おじさん、いないの」って聞かれる。「おじさん、よく働くんですね」などとほめられることも……。おじさんもおばさんも大人気なのだ。外国人のお客も多く、帰省した折の土産をもってくる人もいるという。

 「仕事っていくらでもあるのよ、ほんとに。うちみたいな店は山ほど買ってくるわけではないでしょ。売れてしまうと、次に同じ品物がないわけ。だから、今置いてあるメロンがなくなればあそこに何を出すかって常に考えていないといけない。冷蔵庫はないから、すごく神経を使う。今日の桃、昨日の桃とか場所を大体覚えておいて、軟らかいのが好きなお客さんには軟らかいのを渡す。いちおう好みは聞きますけどね。軟らかい桃が好きな人にかたい桃なんかすすめたら一生恨まれちゃう(笑)。巨峰はその日残したときにはちょっとシールに印をつけておく。それは売るときに少し値引きしてあげるんです」

 一番売っていて楽しい季節は夫妻とも「暮れ」だそうだ。ミカンが中心になるが、日の丸、西宇和のマルマ、和歌山の完熟ミカンなどを扱い、「高いけどおいしい」と好評だ。「贈られた人から、あのミカンおいしかったので同じのを送ってくださいといわれる」のが何よりうれしい。

 大田市場までは車で30〜40分。市場では地域のお客が望むだろうものを主に仕入れている。だから、輸入物は知名度のあるものや食べやすいものを少し置く程度。旬のものを買いやすい価格帯で揃えている。
 
 高級品を置いているので、贈答用途も多い。このときにはお客の目の前で全部チェックして詰めている。籠詰めのときにはダブルにリボンをかけたり、リボンをカールして用いるなど、いろいろ見せ方を工夫する。

ギフトもおしゃれにアレンジ

 アサさんがいろいろな講習会に出席して腕を磨き、すぐに「作品」として反映させている。

「下からセロファンをかけるとおしゃれですよね。桃はオーガンジーとか軟らかいリボンを使います。ご仏前も黒いリボンはさびしくなるので、緑色を入れたりします。お客さんの目の前で作ると、喜ばれるからうれしい」

「果物屋って奥が深い。死ぬまでこれでいいということはないもの。毎日が勉強、死ぬまで勉強だね。毎日が1年生のつもりで頑張っているんだけどね。努力は誰にも負けないと思うのだけど、結果がなかなか出ない。でも、元気だけは誰にも負けない。元気がなくなったら果物屋さんおしまいだよ」

 いま2人の唯一のささやかな楽しみが、日曜日の回転ずし。2人だけの営業なので、1日に2時間交代で休む以外は、食事も一緒にすることはほとんどない。それだけに、日曜の夜は10時半に片づけが終わると、たいていは自転車に乗って一目散に隣町の回転ずし屋を目指す。

「バクバク食べてささやかな幸せを味わうの。ギャハハ」
 あったか心のフルーツショップは元気な笑い声が絶えない。 (2004.7月取材)


 

パソコンを品質保証や各種メッセージカード、POPに生かし、果物にはひと言添えてPRしている。
 
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