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(船吉)

女性社長が奮闘する鮮魚店

 第6回農林水産省食品流通局長賞。日曜定休。売場面積66u、営業時間9〜19時。従業員7人。53店から構成される福岡市内の小売市場で繁盛店としてリードする。経営者の木村貴美子社長は91年度から福岡水産物商業協同組合女性部副部長、93年4月から同組合理事。95年から組合女性部部長として活躍している。「お客様の気持ちを大切に」が経営モットー。

福岡県福岡市博多区千代3-19-1

小売市場の集客に貢献

 「はかたの・街の・台所」を看板に掲げた博多せんしょうは、福岡地下鉄箱崎線千代県庁口から3分、市営住宅が立ち並ぶ団地の一角にある。売場面積3247uの中に、53店舗がひしめき合う。

 最寄り商店街の小売市場では、惣菜を含めた生鮮4品を取り扱う店が集客の要となるが、その役割を十二分に果たし、市場内にある4店の同業店の中で、トップクラスの売上げをあげているのが船吉鮮魚である。

 全店大売出しの水曜と土曜に、この店の真価が余すところなく発揮される。明るく活気がある。品揃えが豊富でボリューム感がある。安くておいしい。魚の情報を教えてくれる等々。
 店の前まで来ると、幅広い間口いっぱいに平台陳列され、商品が浮き上がって見えるほどに照明が明るい。店の看板は白地に金色の文字、その脇に書かれた大漁の文字は赤い文字。調理台では従業員が忙しく立ち働く様子が見える。男性陣は濃紺、女性陣はピンクの前掛け。ひときわ鮮やかだ。

 「この店に来ると眠い目が覚める、と言われるんです」
 経営者の木村貴美子さんはそう言って笑う。
 数年前から、百貨店やスーパーでは鮮魚部門を集客の柱として力を入れ始めた。テナントとして入店し、大量販売する専門量販店も伸びている。それだけに、中小規模の鮮魚店は全国的に厳しい状況に置かれている。厳しさを跳ね返すにはどうすればよいのか。中小小売店にもチャンスは残されているのか。船吉鮮魚のやり方は、そのヒントになるかもしれない。

 ある売出しの日、数ある目玉商品の中で目をひくのは、タイ500円だった。通常ならば1800〜2000円はするものだ。売出しの日は朝から人が繰り出すが、ウロコを落としてから出すので、店頭に並ぶのは客足が1段落した昼すぎになる。それでも、「朝からこの商品を出すと取り合いになるのではないか」と懸念されるほどの売れ行きである。用意した約100尾は、2時間ほどで完売となった。

刺身の100円コーナーが人気
 鮮魚コーナーでは、「水曜日・土曜日船吉鮮魚衝撃の100円均一」の文字が踊っている。イカ、マグロ、ハマチ、アジ、タコ、ホタテ、アカガイなど、10数種類。内容量はまちまちだが、どれも笹と菊模様の飾りをあしらい、見栄えよく盛りつけられている。好きな種類を好きなだけ選べ、100円だから計算がしやすい。顧客の根強い支持を得ているコーナーだ。刺身のパックは、大売出しの日に1300パック売ったのが最高記録であるが、平均でも600パックは販売している。


 ほかにも特売日には、「本日の奉仕品」が何皿も並ぶ。丸の魚ならば、顧客のほうに尾が向いて、今にも動き出しそうな活きのよさがある。これらが無造作に並べられているのはでなく、みな同じ方向に揃えてあったり、扇形にあしらわれていたりする。見た目にも美しく工夫されているのである。少量多品種の品揃えだが、陳列のイメージでボリューム感を醸し出すように考えられている。選ぶのに迷ってしまうほど種類が豊富なので、買い物の楽しさも味わえるのである。

 これらは近隣の催事や天候などを加味し、顧客の動向を見極めて、旬のものを仕入れるようにしている。
 「売りたいものを売る」のでなく、「(顧客が)買いたいものを売る」のがモットー。鮮魚は、鮮度のよさが「おいしさ」の第1条件として求められる。このため、店内に大型冷蔵庫を設けて、売行きを見ながら必要分を適宜補給している。

 船吉鮮魚では、仕入れたものは当日売り切る主義。だが、小売市場の特売日である水曜日は、卸売市場の休日にあたることがある。仕入れはどうするのか。
 「市場があるときの売出し日には仲卸に協力してもらっていますが、市場が休みのときには、産直の活魚を多く利用するようにしています」
 前日に2日分を仕入れることはせず、長崎や北海道などから産直仕入れをする。この産直活魚が名物にもなっているのである。冷凍魚はなるべく売らないようにしている。特売の品目は社長が決める。「損して得とれ」に徹し、5時以降には半額セールで売り切る。あくまで売り切るのが目標である

調理方法を教える

 豊富な魚を売り切るには、対面販売が威力を発揮する。
 「これは三陸のワカメだから、おいしいですよ」
 「うちわエビは、ゆでてもいいし、このまま網にのせて焼いてもいい。味噌汁に入れてもうまいよ。いらっしゃい」
ともかく呼び込みで大声を出して、客の足を止める。次に、産地や商品の特性を折り込んだ説明で客の興味をひき、具体的な料理方法を教えて、「つくってみよう」という気にさせる。

 よく鮮魚店では、「煮ても焼いてもおいしいよ」という言葉を聞く。だが、消費者はそれぐらいのことは聞かなくてもわかっている。今、求められているのは、具体的な情報だ。船吉鮮魚の情報提供は、ひと味違う。

 「お客様は、ワカメというと、料理法は酢の物だけだと思っている。だけど、魚のダシでワカメを煮るとすごくおいしい。ワカメ1皿200円で、お味噌汁、酢の物、煮つけの横に少し添えたりと、いろいろ調理できる。野菜が高いときには、ワカメをすすめたりするんですよ」
 「オリーブオイルで炒めて、好みで塩、コショーで味付けしてもいいですよ」
 「帆立貝のむき身はバターで香りづけするといいよ。辛みがほしかったらコチジャンで味付けすると、お父さんの酒の肴になりますよ」

 カレイのおいしい食べ方、煮つけのポイントなどをカードにしているのだが、それを見せながら説明し、どうしてもほしい人にだけ渡しているのである。

 耳で聞いた調理法は、試してみようという気になる。そこで、具体的に調理のコツを説明すれば、購入意欲につながる。

 また、売りたい商品については、塩焼、照り焼き、揚げるなどの加工をして、試食してもらいながら販売することもしている。特に、若い人たちにはこの販売方法が有効だ。

下ごしらえをして若い客を取り込む

 若い人の魚離れがいわれるようになって久しいが、この店には若い主婦が多い。料理法を教えるだけでなく、気軽に下ごしらえの調理にも応じているからである。スーパーに行くと3枚に下ろしてくれないが、この店は調理してくれるので、と買いに来る。

 みりんやみそに漬けたり、3枚におろしたタチウオを大葉で巻き、つまようじで止めたりして、持ち帰ればすぐ調理できるような半製品も販売している。

 若い主婦同士で連れだって来店し、「これはおいしかったんだよね」という言葉につられて購入する姿も見受けられる。
 接客していると、「若い人は魚が好きで、健康のためにも食べたいと思っているが、どうやって食べてよいかわからないだけ」ということを痛感するそうだ。そこで、調理法についてはできるだけ詳しく教え、本人ができない部分は加工して渡し、プラス・アルファーの情報として魚の栄養をアピールするようにしている。

 魚の栄養については、POPにして表示してある。
 「サザエは食の王様です」「アトピーやっつけるワカメちゃん」など、パソコンで加工して印刷した絵や文字が、水にぬれないようにラミネート加工されているので、とても見やすいし、目につきやすい。

 昨今の健康ブームが魚の好調な売行きを後押ししているが、健康面のPRをこまめにしているのは、概してスーパーなどに多い。だが、船吉鮮魚では、木村社長自ら、健康に関する本を読んだり、講演を聞いたりして、単に魚が身体によいというだけでなく、具体的に旬の魚それぞれの効用や、魚のもつEPAやタウリンなどの成分について説明できるようにしている。
 そして、3食のうち必ず1食は魚を食べるという木村社長自らの体験談が、何よりも力強く魚のよさを証明している。

 商品のよさに加え、店の雰囲気、サービスなども、専門店ならではのものがある。
 売り台の後方の棚に、招き猫や人形が飾られている。これが客をよく招いてくれるという。呼び寄せるのは2〜3歳の子供で、すぐに目を留めて母親の手を引っ張る。すると、刺身でも買って帰ろうかということになるそうだ。
 陳列ケースの後には、ランなどいくつかの鉢が飾られている。
 「今まで魚屋というイメージが、茶とか、黒とか暗かったでしょう。私はこの店に入ってすぐに、花を飾りました。すると、魚屋に花があるんだと、楽しみに来店してくれるようになりました」
明るい店舗に、ボリューム感のある陳列


 興味深いのは、これらの花々を惜しみなく刺身の鉢盛りの飾りに利用していることである。小花からランといった高級花まで、色とりどりに咲いている。これらは電子分解機を通した、消毒効果の高い水で洗って衛生面には最大限の配慮をしているから、顧客も安心して買い求める。
 「盛り合わす魚の種類によって、今日はこの花をあしらってみようと選んでいます。だから、赤、白、黄色など、いろいろな花を揃えるようにしているんですよ」
 刺身がいちだんと華やかさを増すうえ、他店との差別化にもなっている。また、こうしたきめ細かな心くばりが、「鉢盛りならば船吉で」という信頼につながっている。

お客様と従業員に支えられて事業継続

 ブティックなどのように女性が社長という商売も珍しくない。だが、「海の男」という言葉があるように、魚の商売には、どうしても男性的なイメージがつきまとう。

 木村社長は1958年に結婚以来、30年間鮮魚店で魚の販売に従事してきた。当時は、病院や料飲店向けなどの業務用卸が主体で、昼の2時すぎには業務が終わっていた。だが、現在の小売市場で一般小売を始めて半年たった88年に、経営者だった夫が急逝する。

 「これから年を取る一方なのに、小売を手がけると時間的にも今までの何倍も働かなければいけないと反対したのですが、なんとか小売を軌道にのせようと、がむしゃらに仕事をして、疲れてしまったのかもしれません」

 木村社長はこのときに廃業を考えたという。店を継続すると決めた後も、半年間はどうしようかと迷った。
 「仕入れの問題もあるし、人を使っていく大変さもあります。主人の仕入れについていってはいましたが、いつも数歩下がって見ていましたし、自分にできるとは思わなかったのです」
 それが、なぜ継続させていこうと思ったか。

 「私が店をたたむつもりでいたら、お得意さんから口々に、『何十年とお宅で買いよった。あなたがやめたら、ぼくたちはどこに魚を買いに行ったらいいとね』と言われたんです。それを聞いて、はっと我に返りました。

 従業員も『奥さんが店を続けたくなかったなら、ぼくたちがやります』と言ってくれたのです。従業員に働かせて、私だけ働かないわけにはいかない。ならば、もう1度考えてみようと思ったのです」

 いわば、顧客と従業員に励まされての事業継続だった。現在は、午前中が業務用主体、午後からは一般客向けの小売が多い。売上げに占める割合も、一般小売が6割以上になっている。ベテラン社員とともに、木村社長も仕入れの重責を担っている。

 「この商売は、やはり勉強が大切ですね。主人が亡くなるまでは何歩か下がって歩いていたけど、今は人から何をいわれても後ろを振り返るまい、というように強くなりました(笑)。過ぎたことはくよくよしない。後は、前進あるのみ」
 小売市場でも、9人いる理事の1人として活躍している。

 「この中でも、果物店の方が後継者難で廃業しました。このままではいけないというので、理事で喫茶店を経営することにしました」

 小売市場の活性化がいわれる中で、「せんしょう」は福岡市内でも成功している事例に入る。それだけに、木村社長は「せんしょう」唯一の女性理事として各方面から注目されている。

女性部活動を軌道にのせる

 木村社長が女性社長として健闘してきたことが、福岡魚商業協同組合に思わぬ効果をもたらすこととなった。前理事長の呼びかけにこたえて女性部ができ、いま福岡県の7支部全部に女性部が結成されている。木村社長は、博多支部の女性部長を5年続け、4年目からは本部の女性部長としても活躍している。

 全国水産物商業協同組合連合会傘下の組合の中で、女性部に部員が350人いて活発に活動しているところは福岡だけである。これから女性部をつくり、あるいは女性部の活動を通じて、店や組合の活性化を図っていこうとする場合には、参考となる事例といえるだろう。

 この話になると、木村社長の話にもがぜん熱がこもる。
 「ご主人だけでなく、奥さんたちも主役に回ろうよ、という試みなんです。でも、今までは女性部をつくるということに重点を置いた活動といえますね。

 女性はなかなか外に出にくいので、集まってもらうこと自体が難しかったのです。行事がある日を避けたり、皆の出やすい段取りの時間を取るようにして、最初はいろいろな話し合いから入りました。うちは、主人が、子供が、おばあちゃんがと話をしているうちに、私だけが苦労しているのではない、みんな同じなのだとわかっていろいろな話をするようになるんです。

 最初は、悩みとか、ぐちとかを語り合う集いだったんですが、だんだん魚をどんなふうに売ろうか、お客にどう説明しようか、と商売を前向きにとらえるようになりました。それで、今日はサバがおいしいからこういう提案をしようとか、アイデアを出し合うようになったんです。このPOPを貼っておくと売れるよというので、組合に頼んで、POPも作成してもらうようになりました」

 女性部の活動をしてみて、女性が店でいろいろなアイデアを出していることがわかった。これらのアイデアを持ち寄って、女性が前面に出てくれば、鮮魚店経営も活路が見出せるのではないかと考えている。
 「女性は、これと思うと強い。私が証明します(笑)。でも、女性部の役員を決めるまでは、とても大変でした。忙しいとか、お父さんが出してくれないとかの理由で断られてしまう。そこで、役員になった方のご主人に市場で会うので、私は常に『ご迷惑かけます』と言っていました。このごろは『今度の日曜だね、うちのは3時頃には行かれるけん』と声をかけてもらえるようになりました」

 女性部の活動は年々盛り上がり、福岡市の農林水産祭りに出たり、バザーに出店したり、といった社会的な活動にもなってきた。
 NHKテレビの「しっとう福岡」のお魚情報を伝えるコーナーにも、女性部が出演するようになった。それまでは、旬の魚の出回りを男性組合員が伝えているだけだったが、女性部がバトンタッチを受けてから、旬の魚でつくる簡単料理や栄養の情報も加わった。これに出演した木村社長は、毎回数種類の料理を自作して説明したという。女性ならではの視点で、魚の情報を上手に調理したといえるだろう。

 女性部を結成したことで、勉強する意欲も高まった。食べ歩きをして魚の調理方法を学んだり、よい店があると聞けば出かけていくようになった。役員だけの会合のときには、戻ってから支部員に報告するようにしている。

 食料品店では、店主夫人が店の経営に貢献しているケースは多い。だが、業種組合の中で、女性部が存在する例は少ない。女性は仕事のほか家事全般をこなすために、外に出にくいという状況があるわけだが、その困難を乗り越えても、女性部をつくる意義は大きい、と木村社長は力説する。

 鮮魚店の社長として、小売市場の理事として、組合女性部の部長として、木村社長は充実した日々を送る。
店では若い子弟も預かるようになった。「1人1人が経営者のつもりで」「社会に役立つ店になる」ことを常に指導している。
 「お客様の気持ちを大切にしたさりげないサービスに努めていますが、お客様からのありがとうの言葉に感謝できるような人になってほしい。従業員こそ商売の要、と思っています」

 これから鮮魚店が発展し続けるためにも、惣菜を手がけていくのは必須になってきた。調理代を払ってもよいので、買った魚を調理してくれ、という要望も寄せられるようになった。このため、女性部全体で、鮮魚店が保健所の許可を取得するために何が必要か、を学んでいきたいとも考えている。
 食料品店は、どの業種も、スーパーに押されて厳しい状況に立たされている。だが、ここで視点をかえて、女性に団結してもらい、新たな活力を期待するというのはいかがだろうか。

繁盛店のノウハウ
☆買いたいものを売る店になる。
☆さりげないサービスを心がける。
☆料理法を教えてコミュニケーションを深める。
☆刺身に生け花をあしらい、豪華さを出す。

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