オリジナル加工品を催事販売地元の特産品を用いてさくらんぼ漬を開発
どの店にも振り返れば「転機」といえるものがある。チャンスをつかめるか、つかめないかでその後の経営は大きく変化する。有限会社
肉の小林にとっては、加工品の自家製造に取り組んだことや、スーパーのテナントを退店し、加工品を物産展などの催事中心に販売をする小売に切り替えたことが一大転機となった。
山形県寒河江市は人口約4万3000人、1万1000世帯。サクランボの産地として全国に知られている。市の中心部と国道112号線バイパス沿いに大・中規模店が出店し、中小小売店にとって厳しい経営環境となっている。加えて、肉の小林が店舗を構える島地区は市の中心部から約2km離れ、商圏世帯数も160世帯と極端に少ない田園地域である。最寄り駅は徒歩5分のJR左沢線南寒河江駅だが、ここは無人駅で電車も1時間に数回しか通らないだけに、車は生活必需品となっている。車の利用が多いだけに、購買力も流出しやすい地域といえる。
こうした中で、小林繁春社長は新しい食肉店経営を模索し続けてきた。道路沿いにポツンと一店だけ立地している店を見て、現在の売上げを想定できる人はそういないだろう。92年に約6000万円だった売上げは、いまや2億円に迫るほどになった。不利な立地環境の中で、肉の小林は付加価値を高めたオリジナル加工品を開発し、首都圏地区の催事販売に年間60回出店、それにより売上げを急成長させてきたのである。
先代が1960年、現在地に小林精肉店を開店。68年に駅にほど近い地元のスーパーにテナントとして入店したのを機に、20歳だった小林さんは家業を手伝い始めた。以後、91年に退店するまでの23年間、スーパーでの食肉及び惣菜販売をメインにしてきた。店頭で生肉を販売だけでは、商圏内の世帯数からみても、いかんせん需要は限られていたからである。
肉の小林を代表する加工品に成長した「山形牛さくらんぼ漬」は73年に誕生している。これは牛肉のみそ漬である。一般に、肉のみそ漬は酒粕とみそを調合して作るが、それだけでは特徴が出ない、

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このため他に合うものはないかと考えて寒河江名物のサクランボを加えることを思いついた。 とはいえ、みそとサクランボの組み合わせをどうするか。生で混ぜたり、みそを変えてみたりと、新婚まもない純子夫人とともに2年間試行錯誤の末、ようやくたどり着いたのはサクランボワインを用いるという方法で納得できる品を完成させることができた。この労作を市主催のみやげ品アイデアコンクールに出品して入賞したことが大きな自信につながり、後々の加工品販売の道を開いたのである。 |
| ケース内には加工品と贈答品セットが並ぶ。生肉は注文に応じて切る。 |
サクランボのワインを用いたことにより、肉の味がまろやかになり、日持ちもよく味も変わらないということで、自店だけでなく、観光地の土産品としても置いてもらえるようになった。他にはまねのできない味と、サクランボという子供から年寄りまで親しまれているイメージをとりこんだことで注目されたのである。しかし、当初は観光土産として地域振興の一助になればという程度の軽い気持で始めたので、全国展開は思ってもみないことだった。
商品も手作りならば、包装のデザインも手作りで、すべて自分たちのアイデアによるものだった。だが、数年後にはデザインの類似品が出回ったので、包装紙を変え、さくらんぼのキャラクターマークも入れて商標登録を取得、防衛を図った。1つ1つ学習しながら、次のステップへ向かっているが、まねをされたことが逆に自信を深める結果にもなった。
スーパーを退店し、オリジナル商品を強化
87年に市特産品フェアに加入。翌年に誘ってくれる人がいて、初めて都会の県物産展に出展している。
「店を出て販売するのは右も左もわからない状態だったので無我夢中。でも、最初は人通りの多さにびっくりしました。開店から閉店まで1日中人の流れが切れないんですから。マネキンさんを1人雇って販売しましたが、田舎とはお客さんの対応もまるで違いました。疲れたけれど、予想以上に売れたものだから、これはおもしろいということになってしまったんです(笑)」
この頃から徐々に各地の物産展へ出向くようになるが、同じ時期の92年、現在地に店を新装オープンし、スーパーのテナントを退店するという大英断を下している。
「催事販売が軌道に乗りかけていたので、人手やテナント料のことを考えて撤退することにしました。でも、撤退の見切り時というのは、出店より何倍も難しいというのが実感ですね。お客を待っている側から攻めの営業に切り替えたのが結果的にうまくいったということでしょうか。地域の特産品が注目され始めた時期にも当たったので、切り替え時がよかったのかもしれません。それと原材料からみそなどの調味料、使用する水は『月山の自然水』といった具合に徹底的に良質のものにこだわったのも本物志向の人たちに受け入れられることになりました」
さくらんぼ漬は優良県産品に推奨され、92年からは市が新設した観光土産施設「チェリーランドさがえ」に納品、とトントン拍子に歩んでいる。
だが、催事販売を重ねるうちに、さくらんぼ漬だけではパワーが弱いと気付く。それから、オリジナル商品を開発するという歩みが始まったのである。
「92年に法人化したのも加工品開発がきっかけです。みそ漬は自社加工していましたが、サラミなどドライ製品まで取扱いを広げるとなると、工場をもった企業に頼まなければなりません。そのときに個人商店では相手にしてもらえませんからね。うちの好みの味付けにしてもらえるまで何度も交渉を繰り返し、商品アイテムを広げてきました。始めは信用もありませんから、量を販売することで実績を作っていったのです」
自社の満足ゆく味を作り出すため、加工業者も厳選して現在は6社に委託。JANコードを取得して、外注製品はすべてPB商品として自社ブランドで販売している。その数はサラミ、ホースジャーキー、出羽さんろくフランク、豚ひれ生ハム、スモーク製品など一5〜16品目。自社取扱商品は贈答箱、袋詰めなどを入れると約30アイテムにのぼる。
牛タンスモーク、牛タンスモークペッパーなどは牛肉のさくらんぼ漬、牛タンのさくらんぼ漬に負けない人気商品に育ってきた。
加工品作りのコンセプトとしては、従来あるものに付加価値をつけたものか、全く違ったアイデア商品を作るかの2点で開発してきたが、製品が出揃った現在では従来商品を大切に伸ばしていくということに重点を移している。
オリジナル商品の中には、第1回山形県観光土産公正取引協議会会長賞を受賞した「メキシカンスペアリブ」や第3回同賞受賞の「ごまんぞく」などがある。後者はゴマ入りサラミで、粒ゴマを入れることにより風味をよくした苦心作で、発売早々健康ブームにのってよく売れている。数々の受賞は自社の自信につながるだけでなく、販売促進に利用することにより、お客の注目度も高いと一石二鳥になっている。
山形の魅力をアピールする
催事販売に出るのは、実弟の昭さんと長男の雅幸さんである。催事出展は首都圏が中心だが、北海道から名古屋地区の百貨店まで広範囲にわたり、年間60回。2人別々に延べ420日を県外販売することになるが、1回約1週間の催事でコンスタントに100万円を売り上げる。通販を含めて、この催事関連の売上げがいまや肉の小林の8割を占めるまでになっている。
加盟している山形県物産協会を通じて催事の呼びかけがあるが、集客効果を狙って各デパートが物産展催事に力を入れ始めたため、ご指名の出展要請も出てきた。
商品を購入した客が次回は通販で注文が来ることもあるが、販売しながら気に入ってくれた客には住所を記載してもらって、次回催事のときに通知することも実施。パソコンで約1500人の顧客名簿を整理してDMやギフト案内などに利用している。通販だけの客にも好イメージをもってもらえるように、商品のしおりやパンフレットを各種用意した。
長男雅幸さんは機械メーカーに就職後、91年から催事販売に出るようになった。最初は声が出なくてさんざんな売れ行き、体調を崩したこともあったが、今は自分自身のスタイルを確立し、楽しくてならないといった様子だ。
「始めは一生懸命標準語を使ったんですよ。でも、山形弁のほうが売れるんです。田舎まるだし、地元言葉で地方色を出したほうが、本当に山形から来ているんだと思ってもらえるんです。
それと、笑顔、大きな声、姿勢が大切ですね。お客さんと目を合わせないこと。目が合うと、売りつけられると警戒されて逃げられちゃう(笑)。私、身長が高いけど、お客さんを見下ろしてはいけないので身をかがめて、説明するんです」
こうした事柄は経験を通じて学んできた。客が迷っているときに声をかけるタイミングが絶妙だ。
「これ常温ならば1ヵ月だけど、冷凍すれば3ヵ月はもちますよ」
「試食用に切っていて、しっぽ(タンスモーク)の部分残るでしょ。そうしたら持ち帰ってシチューやカレーに入れるんだけどおいしいよ〜」
「そぼろはお豆腐をひと口大に切ってかけるとおいしい。サラッとして油分がないんです。ほら、食べてみて。卵焼きと一緒に入れてもいいし、ミニオムレツもいいよね。タマネギ切って一緒に炒めてもいいし、大根おろしに入れて食べてもおいしい」
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| サクランボを飾って、山形弁を使って、徹底的に山形のよさを売り込む。 |
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立ち止まった客には、バラエティーに富んだ料理提案をする。煮ても焼いてもおいしい式の定型説明でなく、料理のアイデア、保存方法などその商品に必要な情報を与えて、買う気を起こさせる。「食べてけらっしゃい」と試食をすすめて、相手の言うことに笑顔で「んだ〜」と応じる。
「おにいちゃんの話聞いてるとおもしろいから、つい買いすぎちゃって、冷凍しちゃった」と催事期間中にまた買いにくる客がいるそうだが、商品の魅力だけでなく、販売技術も売上げに大いに貢献するようになってきている。後継者が販売最前線で身をもって学んだことは今後の経営にきっと生かされていくに違いない。 |
ファンが各地にできたことにより、通販もそれにつれて伸びてきた。近所のお年寄りに頼んで作ってもらった御殿まりやサクランボのブローチ、歳暮の時期に入れるミニカレンダーなど、ちょっとした小物を入れたり、ていねいな礼状を添えたりして、細やかな心づかいで喜ばれている。
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