小売店こそ自家製畜産加工品を
必要な部位を使って必要量作る強みを生かす
一時のグルメブームを過ぎて、近年は本物志向、こだわりの食品が注目を集めるようになってきた。顔の見える販売として、生産者が加工品の製造販売に取り組み、産直を手がける事例も多く見受けられる。ハム・ソーセージも牧場経営をする畜産農家の手により数々のこだわり製品が生み出されている。
だが、ハム・ソーセージなどの畜産加工品こそ消費者と接している食肉小売店が作るべきだとの持論を実践しているのが、マイスタームラカミの村上繁さんである。
「生産者は一頭丸ごと使い切らねばなりませんが、小売業者ならば必要な部位を必要量仕入れて加工できます。例えばヒレ肉や肩ロースは生肉で販売したほうが有利ですし、バラ肉はベーコンに、ひき肉はソーセージにするといった具合ですね。それに、お客様と接しているからお客様の要望を製品に反映できるという強みがあります。
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専門店経営は厳しくなる一方なので、小売店こそ個性が発揮できる加工品に取り組むべきだと仲間の店にも常日頃話してきたのですが、なかなか追随してくれる店はないですね。ハム・ソーセージだと初めから特殊なものと思い込んでしまうみたいです」
しかし、ハム・ソーセージはメーカーが作るものであって、小売店にはできるはずがないとの思い込みは消費者にも根強いものがあった。この思い込みを解いて自家製ハム・ソーセージを販売すること自体が決して平坦な道のりではなかったのである。 |
| 向かって右がハム・ソーセージの工房。サクラ材チップで本格的な製品を作る。 |
本場ドイツ風の店造りで、本物の味を提供
JR中央線武蔵境駅から南西へ徒歩10分、バス利用ならば停留所1番乗り場から3つ目の境南町3丁目で降りると1分もかからない。武蔵野の面影が残る住宅地域の中、天文台通りと境南4丁目交差点角に、ハム・ソーセージの本場ドイツ風のしゃれた造りのマイスタームラカミがある。工房を見せる広いガラス窓、食肉店では珍しいショーウィンドーなど、いかにも高級専門店らしい店構えである。
交差点側からの入口を入ると、すぐ目の前のショーケースにズラリと自家製ハム・ソーセージが並ぶ。ハムはロースハム、ボンレスハム、シンケンアスビックなど。各々の製品にこだわりのメッセージが添えられている。
ソーセージならばこんな具合だ。 ヤークヴルスト(荒挽きソーセージ、野性的な風味)、リヨナー(シンプルな味)、パブリカリヨナー(レッドグリーンのパブリカ入り、スパイシー)、ステッツガルター(コンビーフ入り、まろやかな口当たり)、ヴァイスヴルスト(さっぱり味の豚肉の腸詰め)、ラオフ(荒挽きタイプ、100%ポークソーセージ)、デペリチーナ(チョリソー風味のピリッとしたソーセージ)など約30種類。思わず歓声をあげてしまいそうな豊富な品揃えだ。
しかもこれらの価格が100g当たり200円、高いものでも100g350円と手頃な価格に抑えられている。自家製造はコストがかかり、メーカー品よりも高いのが当たり前と思われているときに、この価格は何よりも魅力である。贈答品用途でたまに味わってもらうよりも、地元の人に毎日の食卓で味わってほしい。こまめに来店して作りたてを食べてファンになっていただければ何よりの喜び。その思いが価格にも表れているのである。
ハム・ソーセージ、良質な生肉、それに豊富な品揃えの総菜、これらがマイスタームラカミの三本柱の集客力になっている。一般の店は主婦が購買客の中心になるが、この店では客層の幅が広いのが特徴だ。三世代にわたる親子連れ、若者、中年男性……。それぞれが楽しそうに店内を見て回り、注文する。滞留時間も長い。「何にしようか」と選ぶ楽しみが凝縮されたような店になっている。どれも店内で加工されているものばかりだから、安心して購入できる。こうした店が近くにあることの幸せを皆が実感しているかのようだ。 「ドイツから戻ってきたばかりだけど、ここのは本場の味と同じなのね」と店の人に語りかける主婦。
「あった、レバーケーゼ、これうまいんだよね」と指さしながら、連れに話しかける男性。 「私はオニオンケーゼがいい」と家族で好みのものを選んで買う客など様々な反応がみられる。
「ドイツでは食肉店が半径500mくらいの商圏を対象に、日々のハム・ソーセージを製造販売しています。日本でもそれができないかというのが理想でした」
地域密着型でかわいがってもらいながら、孫子の代まで残る商売をしていきたい。この思いで始めたハム・ソーセージ販売が10年を経てようやく軌道に乗ってきたというのが村上さんの実感だ。
鶏肉卸から小売業に転身を図る
マイスタームラカミ、合資会社村上商店は養鶏場を経営していた先代が1934年に鶏卵店を開業したのが始まりである。村上さんは48年に継いで以来、鶏肉の業務用卸に力を入れ、近隣の3市にわたる商圏をカバーして、60年代にはピーク時で四億円の売上げをあげるまでになっていた。
しかし、近隣の食肉店でも鶏肉を扱い始めたことと、駅前にイトーヨーカドーが出店したことにより、独占状態が崩れて、売上げが半減という事態に陥ってしまった。それでも踏みとどまることができればよしと思えるほどで、所属商店街で戦後から残っているのは同店だけというほど商業環境は激しく変化している。
そこで、鶏肉の卸に限界を感じて、店売り中心の販売に切り替えたわけだが、このときには「店を続けるか、否か」というぐらい悩んだという。
続けるからには心機一転と86年に店を全面改装し、かねてから研究していたハム・ソーセージの工房を造って後にはひけない覚悟で販売を開始した。工房は広いガラス窓を通して店の内外から見えるようにし、「本場ドイツの味・自家製ハム・ソーセージ」を売るマイスタームラカミとして再スタートを切ったのである。
「製造については何もわからず、日本獣医畜産大学の教科書をとりよせたり、教えを乞うたり、独学で学びながら技術を修得していきました。作っては試食し、失敗しては捨てという繰り返しだったので、本当にやれるだろうかと思ったことも事実です。でも、小売店は自分の売りたいものを作って売るべきだと思っていましたから、なんとか信念を貫こうと……。マイスター制度で培われてきたドイツ製法とレシピの忠実な継承に努めつつ、日本人の食文化に合ったハム・ソーセージを作る。それが夢でした」
ハムは肉の味がストレートに出るので上質の肉にこだわり、ソーセージは肉と香辛料が決め手になることから、大きさや塩分、濃度は日本人向きにアレンジしているが、香辛料そのものはドイツからの輸入品を用いて本場の味を楽しんでもらうようにしている。日持ちをよくするための増量剤、防腐剤などは一切用いず、上質の牛・豚肉だけで作る本物の味にこだわってきた。ハムの燻煙も自然の香りをとばさないように、市販のチップでなく、サクラの木の枝を削って使用している。
こうして作る製品は海外のコンクールでも評価された。3年に1度国際見本市の会場で個人の業者を対象に開かれる国際食肉製品コンクール、オランダのスラバクトコンクールのハムソーセージ部門で、91年ソーセージのヤークヴルストが銀賞に、さらに精進した94年には7品目が金賞に輝いた。
ヨーロッパを中心に全体では約5000点が出品され、9部門に分かれて審査される中で金賞は49〜50点を取得しないともらえない。
94年クッキングソーセージ部門に出品し、金賞7品のうち、ビーフジャーキー、ピラテンナ、ヤークドヴルストの3点が50点満点を取得した。
本場で技術を認めてもらえたことは大きな自信につながった。晴れやかな受賞が専門誌だけでなく、広く新聞、マスコミ等で取り上げられると遠方からの電話注文が増えてきた。このため、近年は贈答や通信販売にも力を入れている。
顧客名簿をもとにDMも定期的に発送するようになったが、ここ数年、暮れは地方発送の仕事で休むひまもないほど注文が舞い込むようになってきた。これまでは店頭で顔の見える客を相手にしてきたが、これからは顔の見えない客に、いかにしてマイスタームラカミの継続的な顧客になってもらうかが課題になりつつある。
デパートの催事で改めて販売の難しさを知る
「初めはとにかく苦労しました。食肉店でハム・ソーセージができるはずはないとお客様が思っているんですね。前例がないと信じてもらえないんです。専門店は仕入れて売るだけではこれからたちゆかないと思って始めたものの、いかにお客様が食肉店に期待をかけていないかを知って愕然としました。でも、実際に作っているのを自分の目で確かめ、食べてみて納得すると、今度は口コミで広げてくださるようになったのです。続けてきて本当によかった」
味のよさだけでなく、1本のサイズをどれくらいにするかという検討も常に重ねてきた。300gだと多すぎるし、200gだと少ない。ならば250gのサイズにしてみて売れ始めたという製品もある。販売方法もスライスものは1枚から、ウィンナー類は1本から販売すると明記している。
また、ソーセージと食感の合うパンも地元のパン作り教室の島津時子先生と提携して毎週土曜日に予約注文で販売し始めた。中央の売り台にはソース、みそなどこだわって集めた調味料も並べている。
フリーダイヤル、バス停での宣伝、バス車内アナウンス、ギフト商品のリーフレット作成と、これまで専門店としてできる限りのことは試みてきた。
さらに、最近はより多くの人にマイスタームラカミの味を知ってほしいとデパートの催事販売にも村上さん自ら出張販売している。多くは「多摩の味と技」といった名目で都内を中心に出ているが、大阪にも3回出向いた。
「利益うんぬんでなく、デパートのように商圏が広く不特定多数が来る中で、試食販売することで自家製ソーセージのおいしさをどれくらいわかってもらえるかと興味があったのです」 その結果、長年販売に携わってきた村上さん自身もあらためて販売の難しさを痛感したという。苦笑しながら、こう説明する。
「ハム・ソーセージは、コメなどと違って、基本的にはなくても困らない食品なんです。それをどうやって売るかというところに難しさがありました。町なかの店では100%買物の意志のある人しか来店しません。だから、客が来たら売るというのが当たり前になっているんですね。店があることのありがたさを痛感すると同時に、店に来ない客にどうアピールするか、そのことが学べました。
最初にデパートに出たときは、全国から100店舗が集まり、催事だけで1億円を上げるという大きなものでした。だから私もよーし、マイスタームラカミの歴史の1ページを飾るぞと張り切ったんです。ところが販売のプロであるマネキンさんがいても、まるで売れない。試食品を差し出しても素通りするだけです。試食すると買わなくてはと思うらしいんですね。このままおめおめ帰ったら汚点が残ってしまう(笑)。ともかくベスト10くらいには残ろうと目標たてたんです」
そこで、とった手段が村上さん自身が歩いている客を呼び止め、足を止めさせるということだった。店に来る客を相手にするのとでは大違い。見ず知らずの人に声をかけるのは勇気が要ったそうだ。
「恐れ入りますが、私の作っているハムです。買う買わないは結構ですので、ご試食ください。そして味だけでもご批判ください」 すると試食した奥さんは「あらっ、こんなにおいしいハムがあるの」と声を出して、動作が大きくなる。そうなるとしめたもの。周囲の人が私も、私もと試食にやってくる……。この販売方法を始めてからはようやく満足のゆく売上げをあげ、当初の目標を達成することができた。
このときに、自分で作って、自分の言葉で語ることがいかに強みになるかを実感できたという。そして、催事販売で成功している人を紹介してもらったときに「催事場で何百人が買ってくれたとしても心の通う人は数十人しかいないと思ったほうがいい。しかし、自店のファンを見出してとことんフォローしていくことで、広がっていく」とアドバイスを受けたことを肝に銘じている。
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