日本酒ゼリーをきっかけに
全国の物産が年に1度東京ドームに集まる「ふるさと食品フェア」で、有限会社ソワールは「日本酒ゼリー 酒蔵めぐり」を出品し、好評を博した。
栃木市は、市内に400以上も蔵造りの建物が残っていて、「蔵の街」として地域おこしをしている。
遊歩コースを設けて観光客を誘致しているが、決定的な名物がない。そこで、「ぜひともお土産になるものを」と考案されたのが、日本酒ゼリーだった。「杉並木」「鳳凰金賞」「若盛」「若駒」「北冠」「天鷹」など、栃木市近郊にある蔵元の地酒6銘柄を用いたゼリーである。
ワインゼリーは、よく見かけるようになったが、日本酒ゼリーはまだ日本でも数少ない。硬すぎても、水っぽくなってもダメで、口の中でとろけるような現在の姿にするまでに、味と食感を約半年間研究し続けた。試作を繰り返し、お客の試食の声をきいて、95年11月に発売。96年は年間2万個強だったが、徐々に人気が広まっていって、現在は年間5万個のペースで売れている。
これまでは、「街の洋菓子屋さん」として市内だけに知られる存在であったが、日本酒ゼリーのヒットにより、マスコミなどに取り上げられる機会も増え、「日本酒ゼリーのソワール」として知る人ぞ知る存在になりつつある。だが、日本酒ゼリーは、ソワールの取り組みの一端を伝えているにすぎない。
製造を担当するのは、片柳堯水社長、ふるさと食品フェアなどで自社製品をPRするのは、販売部長のよし子夫人。2人が両輪となったコンビネーションで、すばらしい製品を生みだしてきた。
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| 「酒造めぐり」などの地域おこしの商品を開発 |
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しかし、片柳社長は、意外な経歴をもっている。もともとは、電機関係の学校を卒業した関係で、しばらく電機会社で働いた後に、プリント基板を組み立てる会社を設立した。
「とはいえ、しょせんは、大メーカーの下請けの悲しさ。親会社に言われたことしかできない。7〜8年続けたものの、やはり自分で何かができるものをしたいと切り替えたのです。創作することが好きだったんですね」
「電機工場をやめる」と言い出したから、さぁ大変。家族会議が開かれたが、片柳さんの決意が固いのを知って、皆がともに一緒の船に乗り込んだ。73年のことである。
だが、このときに洋菓子店を選んだのには、それなりの伏線があった。それは、片柳さんの父、真一郎さんが、高校を卒業するときに母親からケーキ屋になることを勧められ、東京で10数年修業した経験をもっていたことである。真一郎さんは、終戦後、栃木に戻ったものの、菓子とは関係のないサラリーマン生活を続けてきた。
しかし、家族がこれから取り組む新しい仕事を考えるに当たって、片柳さんは、父親のこの技術が生かせ、家族皆で取り組める商いとして、洋菓子店を開くことにした。
このとき、片柳さんには、漠然とした自信があった。子ども時代は、手先が器用で、ラジオの組立てや分解に熱中するラジオ少年だった。基本的に物を作るのが好きなので、新たに始めたとしてもうまくいくだろうと前向きに考えたのである。
父親にケーキづくりの経験があるといっても30年近いブランクがあり、甘いだけのケーキは求められなくなっていた。味、デザイン、ヘルシー志向の菓子を、季節に応じて変化させていくことが求められていた。このため、東京から専門の講師を招いて指導を受けたりして、ソワールとしての味を出すまでには、苦心したという。
そのかいあって、ソワールは、片柳さん夫妻、片柳さんの実弟幸治さん(製造チーフ)、京子さん夫妻、両親の片柳真一郎さん(会長)、トクさん夫妻の三家族が製造販売にうちこみ、チームワーク抜群の商いをしている。
「会長が考案したコーヒーみつ豆は、ソワールのロングセラー商品なんです。社長の方は、新しいケーキを考案するのが好きですね」
よし子さんの声が明るく弾む。
栃木の観光土産をめざす
栃木市も、昔から現在のような観光地であったわけではない。青年会議所では、町おこしのための実行委員会をつくって、町の将来を考えていた。このときに、若い人が町のことを考えながらいい店になるよう切磋琢磨していくものとして、「若人の日」実行委員会が結成された。
栃木に来た観光客が蔵の街を自転車で回れるというコースは、「若人の日」実行委員会が考え出したもので、すっかり観光客に定着している。
せっかく観光資源になりうる蔵があるのだから、栃木市をもっと知ってもらいたいと考えたのが始まりで、年1回「若人の日」という祭りも開かれるようになった。実行委員会の会長は持ち回りで、片柳社長も会長職を務めたが、このとき町の将来を考えたことが、後の特産品「日本酒ゼリー」を生み出すことにつながった。
その地方を代表する特産品は、ありふれたものでないのがよい。栃木市の人が地元のものとしてお土産にもっていけるものをというので開発が始まった。
「栃木県ならではの素材を使って、一番おいしいものを作りたかった。和洋菓子というジャンルには、こだわっていません。よいものをとりいれていこう、ということで考えました」
最初に作ったのは、「いも娘」だった。そのいきさつを、佳子さんは、笑いながら話す。
栃木県というと、東京に近い地方だけに、かえってマスコミで田舎っぽいイメージで扱われることが多い。ならば、それを逆手にとって、イモを加工した製品にしようと考えた。最初は、「いも姉ちゃん」というネーミングも候補に上がった。だが、それではストレートすぎると、「いも娘」にした。それでも、匿名で苦言を呈されたという。
「明るく、ひらきなおって、これぞ栃木といえるものを作りたかった(笑)。食べてみたら、おーっ、これは本当のイモだ、おいしいじゃないかと」
この成功が、特産品づくりへの弾みとなった。
次に、考案したのは、イチゴ入りマドレーヌである。栃木県が全国一の生産を誇るイチゴをなんとか製品にできないかということで、試行錯誤の末、完成させた。
イチゴは水分を多く含むので、これを加工するとなると、結局は、ジャムとして使うことになる。だが、それでは平凡だ。そこで、1個丸ごと煮詰めてみると、どうやら形を保つことがわかった。これを中に入れて焼いてみると、イチゴの繊維質はそのまままに、形を保っていて、かくて、ソワールの人気商品の1つ「栃木のいちご」が完成した。
問題意識やテーマを持っていると、次々にそれに関連したアイデアがわいてくる。商品にストーリーがつくことで、特産品は、さらに付加価値が高まる。「石畳」は、栃木市が観光客にアピールする道路整備事業として石畳の道路を計画したことからひらめいたものだ。ソワールの店頭が石畳になる前に新商品が完成し、道路完成時には、割引サービスを1カ月間実施することができた。
「薄い石畳の雰囲気を出すために、外側は堅いチョコで、中身に生チョコを入れました。食べ物の形はどうにでもなりますが、味を決定するのが難しい。自分の味覚に合った商品ができればうまいと感じるし、店の者がうまいといっても、自分の味覚に合わなければうまくない。極力みんなの意見を総合して決めるようにしていますが、最後は自分の好みの味になってしまう(笑)」
片柳社長は、職人気質なので、原材料と味には徹底的にこだわるほうだ。チョコレート、ハチミツ、生クリームなど、メーカーによりピンからキリまである中で選びに選び抜いた素材を使っている傑作だと自負している。
よいものを作っていれば、必ず口コミで知られるようになる。特に、昨今のようなグルメブーム、特産品ブームともなれば、いったん知ってもらうと強い。「石畳」は、ラジオ番組の「全国おすすめチョコレート」や雑誌でも紹介され、番組終了とともに数多くの注文が舞い込んだ。
これらの顧客をどうやってリピート客としてつなげていくか、これが今後の課題だろう。このため、商品に添えるリーフレットには店の写真を入れ、また、商品のもつストーリーにも興味をもってもらえるような工夫している。
毎月1回創作ケーキの頒布会
地元の人の県外へのお土産に利用してほしいと考え出したゼリーや菓子類は、いわば全国展開も可能な分野である。だが、「生洋菓子」は、「生」であるがゆえに、その付加価値を地元の人たちにアピールする分野である。ソワールでは、この付加価値の提供を最大の武器にして、90年から会員制度を取り入れた。
これは、店頭ではまだ販売していない創作ケーキを、月に1度、会費制(15センチ(1650円)、18センチ(2200円)で届けている。商品は同じだが、大きさを2種類にすることにより、2〜4人家族向けに対応している。
| 毎月1回考案しているケーキを撮影した写真は、100枚以上になり、コメントやレシピの覚え書きを添えて、アルバムに整理している。この中から、特に評判のよいものは、新商品にもなった。季節感を出したり、他店ではあまり用いていない輸入果物をアレンジしたり、常に研究心が満たされるのがよいという。 |
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| ケーキの頒布会の見本は写真にとってアルバムに整理している |
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「利益を追求しているのでなく、これはあくまでもお客様に喜んでいただこうと思っているので、毎月サービス価格になっています。
数日間の受け渡し期間中に取りに来ていただくか、配達をしていますが、当月のケーキを配るときに、来月のケーキの写真とともにお知らせという形で手紙を入れますと、皆さん、また楽しみに待ってくださるわけです。
1つのケーキから出会いや語らいが生まれてくれればいいなぁ、と願って、ここまで続いてきました」
季節感を配慮しながら毎月違う包装紙やリボンをかけるなど、きめ細やかな心くばりをしている。紙店まで出向いたり、カタログ注文をしたりと、手間はかかるが、包装紙とリボンをコレクションしているという顧客の存在を励みに、毎月工夫を凝らしている。
一般に、洋菓子店でケーキの頒布会をとりいれても、大体1年で終わってしまうそうだ。「材料、形も出尽くしてくるし、長年してくると、次の創作が悩みの種」と言いつつも、ケーキを考案する苦心が楽しみになっているような様子だ。
製品の内容を紹介するコピーや「読書をしながらどうぞ」などのひとことメッセージは、よし子夫人が担当している。
会費は、1年契約で、1年分1括払いは10%引、半年払いは5%引きにしている。
会員数は現在約100人。最高時には260人程度にまで達したことがあったが、売場に出すケーキづくりがやりくりできなくなったので、100人前後に減らすようにした。あくまでも店に買いにきてくれる顧客を優先したいと、考えたからである。
「会費を一括前金制に切り替えたところ、会員数が減りました。
うちとしては、新しいものをおいしいうちに召し上がっていただきたいので、つくり置きはしたくない。そうすると、数を減らさざるを得なかったのです。今は、無理なくつくることができます。
会費というよりは、経費代みたいなものですね。創作ケーキをしてみていつも悩むのは、素材に万人向きのものがないことなんです。ココナッツを使った商品を試してみたくとも、きらいな人は、初めから受け付けないでしょう。お客様が黙っているときは、口に合わなかったときなんです(笑)。おいしかったときは、店に入って来るなり、『この間のおいしかった』と言いますから」
通りを隔ててすぐ店の前に神社があり、結婚式の引き出物の注文も、約20年間引き受けている。
「この注文と創作ケーキとが重なると、目の回る忙しさ」というが、引き出物の予約注文を1カ月前に入れてもらうようにして乗り切っている。
日本酒ゼリーから夢が広がる
再び、日本酒ゼリーの話に戻ろう。
この製品は、お土産品を開けるときの「ときめき」まで配慮し、蔵をイメージしたパッケージにした。
店内には飲食できるスペースがあるが、日本酒ゼリーを出すときは、「切り子など涼しげな器に移し替えて、ハーブを添えて食べると最高」とPRしている。
今後は、栃木ならではの容器とのセットで売り出してみたい、という計画もある。食べ方の提案しだいでいくらでもおいしそうな演出ができるが、器があれば、一目瞭然だからだ。
アルコール度数は約4%。酒が強い人にはややもの足りないかもしれないが、下戸な人でも好感のもてるすっきりした味覚、食感である。アルコールの強さについては、色々と試す中から、現在の味に決定した。
日本酒ゼリーがヒットした最大の要因は、1銘柄だけでなく、県内の有名6銘柄を取り込むことができたということだろう。どの蔵元からも快くOKが出て、特産品としての歩みがスタートした。酒の知名度が高いだけに、地元の人たちも興味を持ってくれた。
地元の観光館や宇都宮市内のデパートのギフトショップなど、取り扱ってくれる店が、徐々に増えている。また、料理店のデザートにも利用してもらえることを期待している。
東京ドームで全国の特産品が一堂に会したときには、1口大のサンプル品を作って、大量に配った。ゼリータイプの飲料が出始めて、若い人たちが食感に慣れているのも追い風になっている。若者向けの雑誌や特産品を紹介する雑誌で紹介され、反響も高かった。
店舗は、現在は栃木駅から徒歩10数分の住宅街の中に立地し、観光客よりも地元の人の利用が多いので、将来は「大通り」に出ることが夢。
「蔵の街のゼリー屋さんになりたい。県内には蔵元が47社あるので、栃木県の地酒を買うような感覚で、ゼリーが一堂に会する酒蔵をつくってみたい」
大吟醸の特上ゼリーを作る、好みの酒を持参してもらえばゼリーに加工する、といった様々な実現可能な夢が広がる。
イベントには、年間4〜5回出展している。地元の祭りや催事には極力参加しているが、今後は、県外に向けてもPRしていきたいと張り切っている。地元のFM放送で、ゼリーと石畳チョコのCMも始めた。
新製品としては、栃木県の名産であるユズを用いたものを展開していこうと、すでに何品かを販売している。
25周年に感謝して
店で常時陳列するアイテム数は、生菓子が36、焼き菓子19の計55種類。売れ筋商品には、「今売れてます」の表示をしている。ティラミスなど話題になった商品には、いちはやく取り組んで来た。
だが、夏場は、ソワールオリジナルのコーヒーみつまめと抹茶みつまめが、ダントツの人気を誇る。季節感を出しながら、季節の行事を上手に盛り込みながらの商品開発を心がけている。
創作ケーキで会員になった人へのサービスとしては、全品1割引きになるカードを発行している。
会員向けの特典として、イチゴケーキ、シュークリーム、パウンドケーキの3種類のケーキづくり講習会を開催。このほか、落語を聞く会、山野草の会、星を見る会などをその年に応じて企画、また、美容室や画廊喫茶とも提携したサービスを実施している。
だが、これとは別に、ソワールの25周年記念企画として、新たに「いちごフレンズ」という会を作った。
これは入会金3000円で会員証を渡し、最初に生クリームデコレーションケーキか、ギフト菓子の詰め合わせ2200円相当をプレゼントするというもの。買上げの10%オフという大盤振る舞いを、1年間だけ恩返しのつもりで実施する。栃木県はイチゴの産地なので、「イチゴフレンズ」と命名した。
インターネットのホームページにもチャレンジしている。
トップページを開くと、「96年度優良経営食料品等小売店全国コンクールにて農林水産省食品流通局長賞を受賞いたしました。特にオリジナルケーキや栃木ならではの味にこだわった、独自商品で評価をいただきました。これからも『美味しさ創り』をテーマに、お客様に喜んでいただけるお菓子を、常に追求していきたいと思います」と書かれている。
インターネットで販売しているのは、日本酒ゼリー「酒蔵めぐり」、生チョコ「蔵の街の石畳」、マドレーヌ「栃木のいちご」、おいもケーキ「蔵の街のいも娘」の4品。いずれも、特産品として興味をもってもらえるものばかり。
注文はぼちぼち程度だが、これからインターネット人口が増えてくれば、ホームページの地図をプリントして訪ねてきた客になんらかのサービスをするなど、店の販売と様々に連動したプランが可能になってくるだろう。
現在は、ギフトと地方発送が20%の割合だが、この数字を拡大していくのが目標だ。
「1つのケーキを通して出会い、語らい、団らんが広がればいいなぁ」と願って追求してきたソワールの味が、今、全国へ広がりつつある。
繁盛店のノウハウ
☆特産品を作り、全国に向けて販売する。
☆創作ケーキから新製品づくり。
☆小さくとも店内に飲食スペースを作る。
☆きめ細やかな配慮でイメージ向上。
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