杉本青果店は、JR常磐線と地下鉄千代田線が乗り入れている北千住駅から徒歩で約3分、千住旭町商店街の中程にある。北千住といえばイトーヨーカドー発祥の地として知られているが、イトーヨーカドーのある西口側は再開発が進み、駅前にも大型デパートが建設されつつある。杉本青果店のある東口駅前通りの商店街(約200店)は都内でも活気ある商店街の一つである。
■自分のカラーを出さなきゃ
杉本青果店は、見た目は本当に「昔ながらの八百屋さん」スタイル。2面が開いているものの、通路を抜けていくお客はほとんどいない。ほとんどが店先での対話販売で、あれよあれよという間に売れていく。だが、杉本青果店に行き着くまでに、青果店が2店もあり、目の前は全日食チェーンのスーパーという激戦区だ。一見して厳しい立地で、どうやって好業績をあげているのだろう。
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売場面積49.5u、従業者数4人、営業時間9:00〜20:00、日曜・祝日定休、野菜60%、果物30%、その他、漬物、日配品 |
店主の杉本晃章さんに言わせれば、自分のやりたいようにやるだけだそうだ。「ふつうはスーパーのほうが品揃えが多いよね。だけど、うちにはスーパーにないものがたくさんある。そこが専門店のおもしろいところ。変な競争が一番つまらない。やはり自分のカラーを出さなきゃ」と、こともなげに言う。
今、元気な八百屋さんはとても元気だ。その元気の秘訣を聞いてみた。
小売店コンクール入賞店の経営ノウハウをまとめた冊子が発行されているが、杉本青果店の最大のノウハウは「いかにロスを最小限に食い止めるか。そのためには見切るのではなく付加価値を高めることが大事」と考え、様々なロス対策をとっていることである。
■八百屋はまめでないとだめ
ロス対策の一つが調理補助で、夏はふかしトウモロコシ、冬はふかしいもを販売している。皮をむかないとトウモロコシはせいぜい1日5本程度しか売れないが、ふかすと1本2L180円のものが1日平均200〜300本も売れるというからすごい。
このほか、サトイモをゆでて、ぬめりと灰汁をとって販売したり、きんぴらゴボウ用にゴボウとニンジンを刻んでセットにして販売したりと半加工して販売している。単に加工するだけでなく、品種もゴボウならばやわらかく、ニンジンならば甘いものを選んで加工するというこだわりようだ。消費者は小さいサイズの皮むきを敬遠するが、この部分を店が手間をかけて販売するとよく売れる。仕入れ値も大きなサイズに比べて安いので手間をかけただけ利益になるし、何より消費者に喜ばれる。
もちろん自家製漬物も手がけていて、特にたくわん、山東菜などははんぱでない量が売れている。
「八百屋はまめでないとだめ。昼頃に来る人は料理に手間をかける人だからたくさん買ってくれるね。夕方が遅くなると単品買いが多い」
どのようにまめかというと、キノコや切り干し大根などはパックしてある商品でなく、箱で購入して自分の店でパックする。ジャガイモも同じ品種をサイズを違えて2種類置く。すると、お客のほうでも料理によって買い分けてくれるのだという。
■いかにロスを最低限い食い止めるか
店頭には多くの新顔野菜や話題商品が並んでいた。旬の野菜のほかに、最も売り込める野菜たちだ。スーパーの呼び込みのようにタイミングよく客に声をかける。「どうやって食べるの」と客も興味津々で、尋ねた客はまず間違いなく購入していく。
自分の扱っているものについて、出回り時期や産地の違いなど、しっかりと把握し食べ方を教えると、客は信頼して買っていく。
杉本さんは東京都青果物商業協同組合が2002年7月から毎月実施している「八百屋塾」の実行委員を務めているが、「八百屋塾」では旬の野菜果物を何品目か学んだ後、それらの食べ比べを行っている。実際に食べ比べて舌を鍛え、自分で食べたことにより自信をもって青果物の味を伝えることができるのだ。
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野菜は新商品や珍しいものをこまめに品揃えしているが、対面販売を生かしているのでよく売れている。 |
イチゴの時期には、あれこれ食べ比べて感想を語り合ったり、簡単に贈答箱にするアイディアを教えあったりして、商売にすぐ役立つ情報を得られることが貴重な機会になっている。
「うちは野菜もそうだけど、POPに甘いとか書かない。昔から産地と品種を書くだけで、お客さんはこだわっているんだなぁとわかってくれた」
イチジクや西洋梨など、扱いにくい商材もむしろ好きな果物になっている。アンズやパイナップル、西洋ナシなども加工のコツを教えるとお客は試してみようと買っていくという。
「果物は試食販売するとよく売れるよね」
「リンゴは年明けになるとふじオンリーになる。だから、リンゴはジョナゴールドや陽光などの中生品種が出てくる時期が一番楽しいよね。ふじはもともと中玉の品種だから、36玉とか40玉がおいしい。あまり大きいのはだめ。これも八百屋塾で学んだんだよ」
トマトは果物の近くに置いてあった。「果物はフルーツ感覚でおすすめしているんです」と節子夫人。
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2003年10月の売場(左)と2004年1月の売場(下)。果物が豊富な秋には売場のよい位置を果物が占める。1月は店の右側に移り、イチゴと柑橘が中心。リンゴも年明けには貯蔵物のふじだけになるので、楽しさが薄れるという。「旬が大事」と繰り返す。 |
野菜の粗利は、半加工など手間をかけているので30%あるのは当然として、果物の粗利も38%と高いのには驚かされる。その日の温度と天気を見ながら、果物も野菜同様、適量を仕入れロスを減らすよう心がけているそうだ。
杉本さんが同業者に対して講演したことがある。そのテーマは「ロスとの闘い」。
「八百屋はロスを最低限に食い止めることが利益につながる。早く見切ることも大事だが、10仕入れて7〜8売れても、最後の2〜3は必ずおまけをしなければならない商売である。それを加工することができれば150円のものを200円で売っても7個売って元がとれる。あとの3個が儲けになる。それを損して売ったり、ロスにしたら7つ売った価値がなくなる。残り3つを加工して倍に売れれば利益率はもっと上がる」
果物の場合も売れ残りそうな商品を床置きして「ジュース用」として売っている店があるが、はじめからジュースとして売ればロスにせずに利益をあげられるわけだ。
そして、もう一つ。果物店でも生産者と交流している店は多いと思うが、杉本さんのこんなやり方は参考になるのではないだろうか。
「北足立市場の小松菜コンテストでいつも一番か二番になるコマツナ生産者がいるのだけれど、この人と野菜のおいしさについて話をしたら、あまりコマツナを食べたことがないというんですよ。だから、見てくれのよい菜を作るのはいいが、最後は味だよ、これから味を追求しないとだめだと言った。だけど、我々がうまい、まずいを言ってもしかたがない。消費者のみなさんに決めてもらおうというので、同じ品種で肥料を変えたり、品種を違えて同じ肥料にしてみたりと、いろいろ試したものをお客さん5人くらいにサンプルとして食べてもらって感想を聞いた。この結果を見せたら生産者がすごく喜んでくれた。毎月1回品種と作型を変えて、甘さ・やわらかさ・食味のアンケートをとったけれど、こうやって生産者にフィードバックしていけば地場野菜は育つと思った」
生産者直送品を扱っているときに、よく売れるということ自体が評価につながるのかもしれないが、消費者が実際に感想を書いたものを見るのは生産者にとっては格別うれしいものらしい。生産者とのつながりという面でも参考にさせられた。果物店もロスをいかになくすかという杉本青果店の精神を見習いたい。
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