◆芦沢先生の話
野菜とはどういうものか
 |
最初に「植物の生育過程と野菜としての利用部分」の図を見ながら、野菜とはどういうものかを見ていきます。人間が食べている野菜は、本来自然にあったものを人間が食べられるような形に変えていって利用しているわけですが、植物としてみますと、植物の初めの段階から終わりの段階までいろいろな形で食べられていることを見ていただきたい。
植物として正常に大きくなるというのはどういうことかというと、芽が出て、茎や葉が茂って(栄養成長)、ある段階で実をつけたりするために、蕾ができて花が咲いて実がなって、これが生殖成長になるわけです。それが成熟して種になります。けれども、野菜として食べるときにはこの全生育段階のどこかで、植物として育っている部分の成果を横取りしているという格好になります。そもそも植物としての始まりがどこかというと、ここでは発芽して最後に種子ができるという順番で書いてあります。 |
野菜として食べるときには、まず最初は発芽したとたんに食べます。モヤシ(グリーンマッペ、ブラックマッペ、ダイズなど)は、最近アルファルファのモヤシというのもできています。大体マメ科の植物を使っています。
やがて、芽が出て双葉が育ち、カイワレの状態で食べます。最近はカイワレダイコンがほとんどなくなったようですが、ダイコンのカイワレが最も有名です。このほか刺身にはシソや赤いタデがついてきます。カイワレに使っていたダイコンは「大阪四十日」というダイコンの品種を使っていました。O-157事件で極端に生産が減り、O-157の元凶だといわれた人は裁判を起こして勝ったそうですが、裁判で勝っても生産がだめになったらどうしようもありません。カイワレはかなりの量使われていて、カイワレの歴史は非常に長く続いてきました。
芽が出て少し若い段階のものを食べるのがアスパラガスで、若い茎を食べるということになります。種をまいて食べるものの中にはマビキナやツマミナがあります。もう少し進んだ段階では、軟弱野菜と称してシュンギクやホウレンソウや一般的な菜類を非常に若い段階で食べますし、同じように芽が出てまもなくのものを軟化・軟白して食べるものがあります。ウド、ミツバ、ミョウガタケなどです。根菜類も結球性菜類もネギ類も若い段階で食べるやり方がありますし、かなり大きくして食べるものとして大株採りがあります。ダイコンや白い大きなネギはこの段階に入ります。
それから、外葉が茂って中が玉になる状態で食べるのがキャベツ、ハクサイ、レタスなどです。
結球性菜類、特に菜っ葉、ダイコンの類は、花ができないように、トウが立たないようにという栽培のしかた、あるいは花にできにくい、トウが立ちにくいという品種を使っていかないと、トウがたってしまったら食べられなくなってしまいます。菜っ葉や根菜類、ダイコン、ニンジン、ゴボウはトウが立たないように栽培していくわけですが、トウが立って花が咲いてくれないと種がとれない。ですから、これらは青果を栽培する栽培のしかたと、種をとるための栽培のしかたが全く違っているわけです。一方でトウが立たないように栽培するのに、種をとるときには立派なトウがたって立派な花が咲くようにという栽培のしかたをする――そのために採種栽培が特別に成り立っているわけです。こうしたことを試験場の人たちや篤農家の人たちが長い歴史をかけて研究してきました。そのおかげで現在のようにきちんと種がとれるようになったのです。
花ができる、蕾ができるという形でないと成り立たないのは、カリフラワーやブロッコリーなど花菜類で、私たちは蕾を食べています。最近はトウが立った花茎の部分を食べる花ニラや茎ニンニクが流行ってきました。
このほかナバナ、コウサイタイなどトウナ類は花を食べるための栽培をしています。
花が咲いて実がなってから真っ先に食べるのは一般的には果菜類が多い。まず未熟果を食べるのは、キュウリ、ナス、ピーマン、豆類、スイートコーンなど。
熟度を進めて食べているのが、トマト、メロン、スイカ、イチゴで、最近はピーマンも完熟ピーマンと称して色のついたピーマンなどがあります。
それから、果実ができるとその中に種ができますが、未熟な種子を食べるのがグリンピース、ソラマメ、エダマメなどです。これから先になると豆類は穀物として扱うことになり、現実には穀物としての豆類と野菜としての豆類は品種が違っていることになります。エンドウには莢で食べるサヤエンドウがあって、若い実を食べるグリーンピースやシュガーピースがある。そのほかに穀物として食べるエンドウがあります。
日本ではどういうわけか品種が別れてなくて、若い段階で莢を食べる、少し熟した豆を食べる、完全に熟したエンドウを食べるということを同じ品種でやっていたわけですが、明治時代になってからいろいろな品種が入ってきて、サヤエンドウ、グリンピースというように別になってきました。未熟種子を食べるものは減ってきていますが、エダマメやダイズは未熟種子を食べるものとして発達してきました。さらに熟度が進み、種子を食べるものがあります。日本では果菜類の種をあまり食べませんが、中国や東南アジアではスイカやカボチャの種子をよく食べます。
芽が出てから種子になるまでいろいろな段階でいろいろなものを食べているわけですが、植物の一生のうち、人間がどこかで横どリしていることになります。最後に種子が完全に熟すと、振り出しに戻って播かれるということになります。
葉根菜類は過熟になると堅くなる、果菜類もうまく扱わないと果実がやわらかくなったり堅くなったりするなど、それぞれの段階で生じる障害をどのように管理するかが野菜の栽培の一つの技術になります。
次に各論に入ります。
■ナス
ナスの原産地は今のバングラデシュの辺り、インドの東部辺りになっています。ナスの種が違うのですが、東南アジアで栽培されているのは親指の先ぐらいの小さなナスでした。こういうタイプのものがいろいろ掛かり合って現在のナスができたといわれます。ナスの歴史は古く、日本でもいろいろな品種が作られています。ただ、ナスの特徴として気温が高く温暖な条件を好むものですから、温帯の南部に多くの品種があり、たくさん食べられています。ナスの品種はヨーロッパではほとんど分化していません。ヨーロッパで品種が分化しているのはイタリア、スペインなど温暖な南ヨーロッパ地帯だけです。日本でナスが本格的に栽培できるのは、新潟、福島辺りから南です。
新潟県は統計上もナスの消費量が圧倒的に多く、品種としてもたくさんあります。ナスの1人当たり年間消費量はだんだん減っていて約3kgですが、新潟県はそれをはるかに超える量を食べ、多くの品種が出ています。ナスで特徴的なのは、ヘタの部分が紫色で、葉の裏側も紫色です。日本ではヘタの下に白いのが出ないものが好まれます。ところが、米ナスと称されるヨーロッパ系のヘタは緑色です。もう一つ、日本のナスは黒光りしていて紫色の濃いものが好まれ、そのために品種改良では紫色にするのに大変苦労しています。
赤ナスは赤というよりも赤味を帯びた紫色であるのが特徴です。
|
 |
|
赤なす 熊本 鈴来青果 |
大長ナスは九州だけで作られ、それよりも少し短い長ナスは九州から四国、中国で作っています。関東で主として作られていた「真黒(しんくろ)」という卵型のナスはほとんどなくなってしまって、現在は中長ナス型のナスに変わってしまいました。
|
 |
|
大長なす 熊本 産地では珍しくないが、関東にはなかなか入荷しない
|
巾着ナスは丸ナスの仲間ですが、昔の巾着のようにへこみが出るナスです。丸ナス、賀茂ナスはめったに食べられるものではありません。新潟には、中長、長ナス、鉛筆ナスがあります。
有名なものでは水ナスがあり、産地である大阪でも和泉では食べるけれども河内のほうでは食べられないといわれてきました。皮がやわらかいため水分がすぐ出てしまうからで、水ナスを食べたいならば和泉へこいといわれたものです。正確には泉州水なすといいます。
ナスの中には青ナスと称して紫色が出ないものがあります。埼玉県熊谷市近郊辺りで穫れ、お盆の時期にはなくてはならないものになっています。
30年ほど前、ビニールハウスでナスの栽培が始まった頃に、ある会社のビニールを使うと、紫色のきれいなナスにならずにぼけた色のナスができるというので大騒ぎになったことがあります。ビニールの種類により光線が変わって紫色になりきらなかったからで、ナスの色の出方は微妙なことに反応するということが分かりました。
現在日本のナスの半分以上はタキイ種苗の千両2号が占めています。千両2号が出て、従来の長ナス、卵型ナスが全滅して中長ナスに変わってしまいました。ある品種が出てくると、全体的に押されてしまうという例です。ナスは地域によって好みがあるので、新潟は出荷用には千両2号を作りますが、地元で消費するためには地域に好まれるナスを作っています。
■トウモロコシ
トウモロコシは実がつくと、中に糖を蓄積していき、糖がでんぷんに変わって成熟します。ところが、スイートコーンは、突然変異で糖がでんぷんに変わるのが抑えられた品種で、スイートコーンとして食べていることになります。昔、夜店の焼きトウモロコシの中には、飼料用のデントコーンとかフリントコーンとかいうのを焼いて食べさせ、うまくないということがあったわけですが、あれらは全く種類が違うわけで、スイートコーンは甘味種です。
スイートコーンにはスイートというタイプがあり、やがてスーパースイートが生まれ、最近は一つの穂の中に白いのと黄色いのが混じるバイカラーコーンが出るものが主体になってきています。バイカラーコーンは甘味が強いという特徴があります。なぜバイカラーにしたのかといえば、今までのトウモロコシとは違う、白黄色混じっているのはとても甘みが強いとアピールできるので、わざわざそういう形に仕上げて売り出したのです。
スイートコーンは日本ではほとんど品種改良されておらず、アメリカで改良された品種を日本にもちこんでいます。種苗会社がアメリカの会社と契約を結び、販売する品種名を知らせておいて種を輸入して作っているのです。
かつてはトウモロコシを買ってみたら、先端不捻により上3分の1がなかったということがありました。一つは品種改良、もう一つは先端不稔を解消する研究が進み、上まで実がついていないものは少なくなってきました。トウモロコシの株が立った先にあるススキの穂が雄花です。葉の脇(葉腋)にあっていっぱい毛がついているのが雌ずいで、そのものに花粉がついて実るわけです。ところが栄養が回らなくなると先端不捻が起こります。トウモロコシは完全な雌雄異花で、雌花の咲いている毛の先に花粉がついて実ります。一つ一つ穂を数え、どこに花粉がついたらうまく実るかを一生かけて研究していた人たちもいます。
トウモロコシは背が高くなって雌花がいくつもつきます。その中の一つだけがトウモロコシになって食べられます。ベビーコーンは大きくならないと初めから目星をつけ、芽をかいたものです。芽かきをしたら競争がなくなって1つだけが大きくなるだろうと芽かきをしていたわけですが、芽かきはやってもやらなくてもいいという説が出てきました。
トウモロコシの産地はスイートコーンも含めて圧倒的に北海道に多い。これはある時期に集中して出てきて、あとは冷凍保存するので北海道産がたくさん出回るということになります。
■ラッキョウ
ラッキョウというのは、大変歴史の古いネギの仲間で、最初は薬用でしたが、食用として食べられるようになりました。ラッキョウの消費は非常に減ってしまいました。
静岡県でラッキョウの若いのをとって生で食べるという習慣があり、それを卸売市場の人が見つけて出荷を呼びかけました。そのときに若どりラッキョウでなく、何かよい名前はないかということになって、フランスのシャロットをヒントにエシャロットという名前をつけて売り出したのです。以後、エシャロットで通用してきました。
シャロットは分球性でタマネギのような形をしています。シャロットを輸入して普及させようとしたところ、盗人(?)のほうが幅をきかせているので、本家はベルギーシャレットと呼ばれるようになりました。したがって、エシャレットというのは日本では若どりラッキョウということになります。エシャレットに使うラッキョウはラクダという品種で、古くから日本で作られていて、いろいろなところでいろいろな名前で出回っています。 |